みなさんは「宇宙の声」と聞いてどんなものを想像しますか?
何言ってんだこいつ、はやく何とかしないと…と思ったそこのあなた!
実は宇宙って、いろんな声で満ちているんです。
空気のない宇宙で音なんて伝わらないっしょ笑と思ったそこのあなた!
実は宇宙の声を伝えるのは空気じゃないんです。
それは「空間」なんです。
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ちょうど100年前の1916年、かの有名な天才物理学者アインシュタインは、
「空間の歪みは波のように伝わっていく」
と言いました。この波が本記事の主題「重力波 (gravitational wave)」です。
トランポリンにボールを乗せた状況をイメージしてみてください。
ボールの重さでトランポリンが凹んでいますよね。
これが「空間が歪んでいる」ということです。
そしてボールが動けば、凹んでいなかったトランポリンの端の方まで揺れますよね。
このように伝わるのが「重力波」です。
冒頭の宇宙の声というのはまさにこの重力波のことを指します。
でも、そんなことが本当に起こっているのか正直疑わしいですよね。
どうやって確かめるか。
実際に声を聴いてみればいいんです。
ちゃんと聴こえれば、文句なく存在が確定します。
しかし人類は100年間、この声を聴き取れずにいました。
なぜだと思いますか…?
それは宇宙の声が小さすぎるからです笑
重力波の源というのは重力なわけですが、ここでちょっと重力について考えてみましょう。
みなさんは普段地球の重力を感じていますよね。
周りの物体も地球の重力のおかげで地面にとどまっています。
では、地面に置かれたクリップに小さな磁石を上から近づけるとどうなりますか?
クリップは上にある磁石に引きつけられ、地面から離れますよね。
小さな磁石な力が、とてつもなく大きな地球の重力に、やすやすと打ち勝ってしまうわけです。
このように、重力というのは、例えば磁石の力と比べてとんでもなく弱いわけですね。
これだけ弱い重力から生まれる波、重力波というのも、やはりとてつもなく弱いのです。
もちろん人間が腕を振り回すだけで重力波は出ます。
しかしその重力波を検知することは到底不可能です。
人間にも検出ができるかもしれないと言われてきた重力波でさえ、地球と太陽の間の距離(約1億km)が水素原子1個分(約0.0000000001m)変化する程度です。
この「大きな」重力波はブラックホールと呼ばれる天体からやってきます。
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多くの方が名前だけは聞いたことあると思います、ブラックホール。
なんでも飲み込んでしまう性質をもち、光でさえも出てこれません。
光がやってこないので、ブラックホールを普通の望遠鏡で観測することは難しく、とても謎の多い天体です。
しかし、「見る」ことはできなくても「聴く」ことはできます。
霧の向こうが見えなくても、やってくる音は聴こえるのと同じ原理です。
重力波でしか知ることのできないブラックホールの正体を突き止めようと、人類は奮闘してきました。
さて、それでは具体的にどんな状況でブラックホールから重力波が出てくるのでしょうか。
ブラックホールが2つあり、お互いの周りを回っているとします。
とても大きな空間の歪みが、刻一刻と変化し、重力波を放出します。
そして、最終的にこの連星ブラックホールは、合体する運命にあります。
合体する瞬間のエネルギーというのは、それはそれは激しいものです。
想像してみてください。
太陽の10倍程度もの質量を持つ物体が、1秒でお互いの周りを100周もするんです。
おそらく宇宙の始まり、ビッグバンに次いで、宇宙で最も激しい現象です。
宇宙の小さな声、なんて表現しましたが、そんな生ぬるい現象ではありません。
断末魔と呼ぶにふさわしいでしょう。
しかしそれでようやく、先ほどの1億kmを0.0000000001nm変化させる重力波になるのです。
アインシュタインが重力波を予言した頃は、人類には検出できないだろうと言われていました。
なんとかして重力波を検出してやろうという動きが出てきたのは、50年ほど前のことです。
そして試行錯誤の結果、人類は「物と物の間の距離を測る」という方法で重力波を聴くことにしました。
重力波がやってくると、物と物の間の距離が変化します。
したがって、その距離を測定していれば重力波がやってきたかどうかが分かります。
なんてシンプルなんでしょう笑
もちろん、シンプルとはいえとんでもなく難易度は高いです。
実は重力波の大きさは比率で決まっています。
先ほど1億kmを0.0000000001mだけ変化させると言いました。
しかし、実際に地球で1億kmの距離を確保することはできず、技術的にはせいぜい数kmが限界です。
アメリカ合衆国のLIGO(ライゴ)というチームは、その距離を4kmとしました。
この時、0.000000000000000004m変化するのがわかるような感度を実現しなければなりません。
想像を絶する小ささであり、障害となる雑音は無数にあります。
例えば、地面は常に0.000001m程度揺れているのですが、これを10桁以上小さくしなければ重力波が聴こえなくなってしまいます。
ですが人類も負けてはいません。
技術の進歩はすさまじく、無数の雑音を提言し、2000年代後半から2010年代前半にかけて目標感度へあと約1桁のところまで迫ったのです。
地球のすぐ近くでブラックホール同士が合体するようなラッキーイベントなら、検出できる感度でした。
しかし検出はされませんでした。
そもそも実は、連星ブラックホール自体、観測されたことは一度もなく、実在するかどうか謎でした。
また、目標感度まで1桁足りなかったとはいえ、そこに費やされた努力、コストは膨大でした。
やはり人類に重力波を聴くことはできないのではないか、無駄なあがきなのではないか。
そんな声も出始めた中、さらなるアップグレードを経て2015年9月、再びLIGOは動き始めたのです。
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そして、稼働のわずか2日後の9月14日、人類はついに成し遂げます!
ブラックホール連星合体の瞬間を聴きとったのです!
しかもとんでもなくクリアに聴きとることができてしまったため、最初は誰もが疑ったほどです。
しかしどれだけ粗探しをしても、本物だとしか思えない信号でした。
検出は2016年2月に発表され、世界中が熱狂しました。
あらゆる新聞の一面を飾り、ネットでも大ニュースになったので記憶している方もいるかもしれません。
また同年12月26日にも、人類は2発目の重力波を捕らえました!
これは、1発目が超ラッキーイベントではなく、人類が確実に重力波が聴きとれるようになったことを意味します。
半世紀かけて検出できなかったものが、わずか4ヶ月で2回も検出できてしまったのです。
こうして人類はまた科学史に「重力波天文学創生」という新たな1ページを刻みました。
重力波に携わる全ての人が報われたことでしょう。
自分たちがやってきたことは無駄じゃなかったのだと…!
今後、さらなる重力波イベントの検出に向けてアップグレードと観測運転が繰り返される予定です。
実は日本にもKAGRAと呼ばれる重力波検出器が現在建設中であり、2019年の検出を目指しています。
たくさんの宇宙の声を聴いていくことになるでしょう。
果たしてブラックホールの、ひいては宇宙のどんな姿が明らかにされていくのでしょうか。
重力波天文学に携わる一員として、楽しみでなりません。
また、この記事を読んでもう少し重力波について詳しく知りたいと思ってくれたそこのあなた!
安東 正樹『重力波とはなにか 「時空のさざ波」が拓く新たな宇宙論』
さらに、面白すぎて重力波のことしか考えられなくなってしまったそこのあなた!
ぜひ共に研究しましょう!笑
最後まで読んでいただき、本当にありがとうございました。