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「楽しく創るからこそ、学びが生まれる」ワークショップ研究者・安斎勇樹さんが語る、ワークショップの驚きと快感

2016.11.29

「ワークショップ」という言葉、とにかく色んなところで目にしませんか? 中身を見ると、お堅い勉強会から、お遊びっぽいものまでいろいろ……。

ワークショップってなんなの? ん? ワークなの? ショップなの……?

今回はそんな謎多き「ワークショップ」を徹底解剖するべく、ワークショップ研究者である東京大学大学院情報学環特任助教、安斎勇樹さんに突撃インタビューしました!

ワークショップなど場づくりを行っている団体「Fora」で代表をしている亀岡が、インタビュアーを務めます。ワークショップとはいったい何なのか、探りつくします!

学生証
  1. お名前 安斎勇樹さん
  2. 所属 東京大学大学院 情報学環 特任助教
  3. 主著 「ワークショップデザイン論―創ることで学ぶ」「協創の場のデザイン-ワークショップで企業と地域が変わる」

ワークショップって何のためにやっている?

K:安斎先生、よろしくお願いします。

今日は、ワークショップとは何なのか、ワークショップにはいったいどんな価値があるのか、先生からお聞きしたいと思っています。

A:僕は、ワークショップは学校の授業に比べて「ゆるやかな学びの場」だと考えています。授業や研修などのフォーマルな場と違って、全員が一律に達成すべき目標や、学習者に対する画一的な評価がないため、企画者の想定を超える学びが生まれやすいところが特徴です。

K:評価をつけないって、なかなか斬新ですね……。 

A:ワークショップでは、あるテーマについて深く考えた結果、1人1人にとって意味のある学習が起こればいい、というスタンスで実施されている場合が多いです。このゆるいスタンスだからこそ、結果的にいい学びが起こることがワークショップの非常に面白いところです。

このようなゆるさの中でコミュニケーションを重ねていくうちに、参加者1人1人のアイデアを超えるような、思いもよらないアイデアにいきつくことがある。このプロセスを「創発」と呼んでいます。

Foraの活動で高校に出張ワークショップをしているインタビュアーの亀岡。

K:日本の教育現場では、教えることが決まっていて、生徒の定着度も教師の教え方も評価されるのが当たり前だったりします。真逆の思想と言っても良さそうです。

A:厳密に言うと、参加者の学びの到達度をテストなどで評価することはしませんが、企画したプログラムがうまくいったかどうかについては評価すべきです。

ワークショップでは、「行動レベルの学習目標に分解して記述しにくいタイプの学び」を引き起こすことを狙っています。例えば、「自分の強みに気がつく」という学習は、人によって学習の仕方がまちまちですよね。そのため同じテストで到達度を計ることはできません。

ただ、ワークショップの場で個々人に意味のある学びが起きているかどうかを観察したり、記録を分析したりすることで、ワークショップが学びを引き起こすために効果的かどうかの評価はします。これがプログラムの評価です。

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ワークショップを作ること自体が、強烈な成長機会

K:ここ最近、ワークショップが結構流行ってきていると思うのですが、大学生はワークショップを受ける側に回ることが多く、ワークショップを実施する側の大学生が少ないと感じています。大学生がワークショップに関わることの意義は何だとお考えですか。

A: ワークショップの企画や運営に関わる意義はとても大きいと思っています。まず、学習を引き起こす「プログラム」を組み立てる力や、集団のコミュニケーションや深い思考を「ファシリテート」するスキル自体が、現代社会で必要とされているからです。企業や地域で解決されていない問題にアプローチするときに、ワークショップデザインのスキルそのものが大いに役立ちます。

K:答えのない課題に対する力、ですね。

Foraでは、進路の授業を中心に、大学生が大学の学びや進路の考え方を伝えるワークショップを行っています。

A:もう1つは、ワークショップを実施する過程で、汎用的な思考力を鍛えられる点です。ワークショップを実施するときには、常に自分ではない他者の目線に立って、学びを創発が起こる場をつくらなければなりません。

この過程で、鋭い洞察力・観察力、コミュニケーション能力を養うことができます。つまり、ワークショップをつくること自体がとても強烈な学習機会になっているんですよ。

K:これまでに先生がワークショップをやっていて、大学生が変わったなと思う瞬間はどんなときでしょうか?

A:今、いくつかの大学で「ワークショップデザイン」を教えています。

たとえば、最初は本当にやる気がなくて、ずっと一番後ろの席に座っていたような学生が、ワークショップを企画する課題を通して人を巻き込むことに対する責任感を覚え、自分が考えたアイデアがプログラムとして形になり、ワークショップという舞台で堂々とファシリテーターとしてふるまうことで、自信をつけていくケースがあります。そういう学生をみると、単なるスキルの習得を超えた大きな成長を感じます。

K:講義型の授業ではちょっとありえないような、大きな変化ですよね。

A:最初はまるでワークショップに興味のなかった大学生が、授業のあと、今でも僕のワークショップに参加してくれたりするんですよ。

K:ワークショップという場で、人と人が交わり、互いに相乗効果を生み出すからこそ、それだけの引力があるんでしょうね。

学びの質を下げないために

K:現在、「アクティブ・ラーニング」がキーワードとなって教育改革が進んでおり、それと親和性の高い「ワークショップ」も今後ますます世の中に普及していくと考えられます。

そのとき、「学びの質を保ちながら、ワークショップを広めていく」ことの難しさがあるのではないかと感じます。どんなことが大事だと思われますか?

A:なによりも、質の高いプログラムを核として普及させていくことが重要だと思います。やはり、ワークショップの質の8割はプログラムの完成度で決まってしまいます。残りの2割はファシリテーションです。

K:良いプログラムを参考にしながら作っていかないと、独学では限界がありますよね。

Foraでは、進路の授業を中心に、大学生が大学の学びや進路の考え方を伝えるワークショップを行っています。

A:加えて重要だと思っていることは、ワークショップの思想もセットできちんと普及させていくことです。

K:ワークショップの思想?

A:ワークショップは、もともと歴史的には各領域におけるカウンターカルチャーとして普及していきました。近代的なトップダウン式の方法に問題があるから、「みんなで答えを探し出していく」ような、民主制を取り戻す方法として、発生したのがワークショップです。

このようなワークショップの起源を考慮したときに、「何かを教え込もうというマインド」でやってしまうと学び豊かな場にはなりません。元々の思想を失って、無自覚に「楽しい洗脳プログラム」を目指してしまう危険性があります。 

K:「先生などの指導者が学習者に何かを教えこむ」というスタンスが日本では当たり前になっているので、手法だけでなく、学び合うという思想がセットで広がっていくといいですよね。

A;どうしても大学生は受験までの個人プレーに慣れているから、他者と協働していくというプロセスを大切にする学びに抵抗がある人が多いです。

ワークショップは多様なプロセスも許容される環境で、ここで他者とのコミュニケーションコストを割くのは大変だけれど、だからこそ得られる「驚きと快感」がある。

それを知ることができたら、誰かとコラボレーションして学ぶことの価値を見いだせるんじゃないかなと思います。

K:驚きと快感、ですか。

A:学習と創造はコインの裏表だと思います。集団が互いに関わりあうことで初めて、最初の時点ではどのメンバーも持っていなかったはずの視点が生まれることがある。つまり、創発が起きるということです。

僕は、ワークショップデザインの最大のポイントは、創発が生まれやすい場づくりをすることなのだと考えています。

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誰もが打たれない杭になれる環境

K:創発が生まれやすい場づくりをするにあたって、先生が以前開催された「サンドウィッチマン」のボケとツッコミを題材にしたワークショップ(※著書「協創の場のデザイン」で解説されていますについてお聞きします。
最近、社会全体に「ツッコミ過多」というか「出る杭は容赦なく打つ」という風潮が渦巻いているように感じます。

このような、人々から創造性を奪うツッコミと、人々の学びを促進させるツッコミの違いって何なんでしょう。

A:実は僕、ファシリテーターとしての芸風は辛口だと言われているんですよね。参加者にガンガンツッコミを入れるから(笑)

K;(芸風?)

A:確かに、相手が次に何か言うのが怖くなってしまうタイプのツッコミはよくない。でも、違う角度の視点に気づかせるような、その場で当たり前になっていたことを揺さぶり昇華させるようなツッコミは創造には不可欠です。

創発は何よりも矛盾や葛藤から生まれます。相容れない複数の視点を乗り越えてこそ、新しい捉え方が生まれるからです。

K: 日本人は「非難」と「批判」を分けられないってよく言われるのと同じですね。

Foraの「建築ワークショップ」の様子。スパゲッティーでタワーを作りながら、ものづくりの面白さを体感します。

A:そう、全てが「ディスる(disrespect)」という最悪な言葉に集約されている。ツッコミに敬意がないのが問題です。相手の発言に敬意をもって批判することは、創造に必要なことです。

K:どんな発言も受け止められる「安全・安心」が担保されつつ、敬意ある批判が出てくる場。その結果、誰も知らなかったようなものが創り出されていって、結果として学びが得られる場。それこそが目指すべきワークショップということですね。

A:僕の共著書『ワークショップデザイン論』の副題が「創ることで学ぶ」なのですが、まさにそれがワークショップの本質です。「学ぶことで創る」んじゃなくて、「創ることで学ぶ」。創ることが先なんです。

特定の学びを押し付けるんじゃなくて、あくまで「創っている過程で副産物として学びが起きている」という環境を目指すべきです。その方がかえっていい学びを起こすことができます。

K:日ごろワークショップをつくって実践している身としては、本当にありがたいお話がたくさん聞けました。とにかく「創ることで学ぶ」。参加者が楽しみながら、自然と学べている場。そんな場を、これからもつくり続けます。

楽しく作りながら学べる場づくりを、Foraも高校現場で目指しています。

ワークショップにちょっと興味を持った皆さんへ

これを機に、ワークショップを実践してみませんか?

インタビュアー亀岡が代表を務める一般社団法人Foraでは、「教育を人生に統合する場」をテーマに、ワークショップ型の高校生向け出張授業を開発・実施しております。

そしてそして!

ファシリテーション・ワークショップデザインを理論と実践を通して学べる自主ゼミ「ワークショップ・ファシリテーション講座」を今期共同開講します。

4月11日18:45 – 20:30@駒場キャンパス101教室で初回オリエンテーションを行いますので、まずはお気軽にお越しください!

詳細はこちら(https://www.facebook.com/events/188801914967777/)です。

ちなみに東大内外問わず歓迎です!

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一般社団法人Fora
はじめまして! 一般社団法人Foraです。UmeeTのライターをやっています。よろしければ私の書いた記事を読んでいってください!
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