【流れ星を作り出す!?】東大天文学博士卒にして起業家。ALE岡島礼奈さんが宇宙にかける想い

2016.09.24

Tak Jin

ー流れ星を自由に操るー

そんなSFのような野望を、現実のものにする会社がある。東大大学院で博士号を取った先輩が代表を務めているという。

 株式会社ALEは人工衛星から「流れ星を流す」ことを軸に、地上から見える宇宙のエンターテイメントを企画している。

 来年から理系大学院に進学する筆者、日々「大学院出た後、実際どうなるんだろうなー」とか「そうは言うもののビジネスの世界でバリバリ活躍する人はかっこいいよなー」とかさまざまな文脈とシチュエーションで(主に自室で天井を見つめながら)考えていたところ、「天文の博士」と「宇宙開発ベンチャー」という単語とともにインタビュー案件が舞い込んできたので脊髄反射的に立候補してオフィスを訪問してきた。 

研究・投資・起業のそれぞれのステージを体験してきた、CEOの岡島礼奈さんが基礎研究とビジネスの間に見出したものを語ってくれた。

オフィスに到着して挨拶し、では写真も撮りつつインタビューしていきますねー、とカメラを用意していると… 

「ちょっと待って、写真撮られる時のための服があるから!」

 と言ってオフィスの奥の方へ消えた岡島さん。JAXAと一緒に作ったという衛星写真をプリントした一点物を羽織って再登場。のっけから気さくな人。

コスモを感じる…
学生証
  1. お名前:岡島礼奈さん
  2. 所属:東京大学大学院理学系研究科天文学専攻 博士課程修了
  3. 進路:大学院修了後、ゴールドマンサックスでの勤務や新興国コンサルティング会社の経営を経て、株式会社ALEを設立

流れ星を流す会社とは?

宇宙を舞台にビジネスを進め、かつ基礎研究に貢献することを掲げるALEは具体的に何をしようというのか。 

「人工の流れ星を事業を思いついた経緯はどんなものだったのでしょうか?」

 「 まず私が流れ星を見るのが好きだからですね」

  純粋にして最強の動機だ。

「それから大学院時代の指導教員の影響です。彼は変わった人で、研究者として優秀でかつ予算をとって来るのがとてもうまい人でした。時に罵られながら自分の足で企業や官庁をまわって、集めた3億円でハワイに自分達の研究テーマに適した天文台を作ってしまうような。それを近くで見ていて、サイエンスとビジネスが両立するような仕事があったらそのフィールドでやっていこうとは常に考えていました」 

「僕も理学部なんですが、理学研究というと、その研究を利用してなにかお金になることをするのがとても難しいと思っています。それでも自分が魅せられた宇宙というフィールドでビジネスをしていくのってかっこいいことです」 

「天文学は応用範囲がとにかくない。人類の知的好奇心によって発展してきた学問ですが、それ自体ではマネタイズするのは難しい。『何の役に立つの?』と言われてしまいます。でも天文のおもしろさや研究の成果は伝えたいですよね」  

基礎研究に取り組むなら、すべての研究者がどこかのタイミングでぶち当たる壁である。  

「もしも研究の成果によって流れ星が見られたら、難しいこと抜きにして一目瞭然です!」 

 サイエンスコミュニケーションの文脈もあっての着想。とにかく分かりやすく楽しく。それが流れ星を自在に操ることの、実は大きな意義なのではないかとわかってきた。 

「流れ星を流すことがどのようにビジネスに繋がるのでしょうか?」

「流れ星という要素を決めた後でも“どう見せるか”という問題はありました。最初は『お金持ちにうければいいか』と思っていましたが、今のところ1つの流れ星を流すのに300万円掛かります。個人が買うとなるとかなり限られてきますよね」 

中に数十発の「流れ星」を積んだ小型のロケットを宇宙に飛ばし、そこから「流れ星」を撃ちだす。やっぱりそれくらいのコストになってくる。夢は大きいほどお金は掛かる。  

「ただ誰か一人のために流すよりも、もっと魅力的な可能性があるということを次第に確信していきました。会社を立ち上げて、アカデミアだけでない様々なバックグラウンドを持つ優秀な仲間が集まって仕事をするようになり、方向性の議論を進める中で、あるとき『流れ星を大きなイベントの一要素とすることでもっと多くの人々を巻き込めばいいのではないか』という発想が生まれたのです。これは私一人では絶対に思いつかなかった発想でした」

チームだからこそ夢が実現に向かっていく

「優秀なチームがあってこそというわけですが、岡島さんはその中でどんな役割を持っていると思いますか?」 

 「宇宙工学サイドの技術者やエンターテインメントの企画者などさまざまな立場のメンバーが集まったチームの中で、私自身はやはり経営者としてものを見ていると思います。金融やコンサルの経験は確実に生きていますね」 

優秀なチームを原動力に、ALEは流れ星を「一部の富裕層」ではなく、「広く多くの人々を巻き込む」方針で走り始めている。

 「流れ星の凄さは一発を非常に多くの人たちが同時に楽しめるというところです。花火の比ではない。一度に地上にいる人でだいたい3000万人が見ることができるんです。たとえば東京を中心に見せようとすれば、おのずと関東圏全体の人たちが見ることができます!これはもう、みんなで楽しまなきゃ損ですよね!」

 「確かに関東圏全体の人が一度に楽しめるエンターテイメントなんて聞いたことがありません。‶みんなで同時に同じものが見られる”ってどんなジャンルでも体験としてすごく鮮烈ですよね」 

「流れ星を操ることができれば、肉眼で見える数少ない宇宙開発になる。流れ星が見えることに関してはフリーライダー歓迎の姿勢で企画します。(※流れ星を見るのは無料にするということ)波及する広い範囲全体で一つの“ざわざわ”を作り出すんです」 

さまざまなエンターテインメントと複合したイベントを企画することで、大企業や地方自治体などにスポンサーになってもらうという戦略をとるという。  

「今後この共有体験という性質をもっと発展させていくつもりです。計画段階のモデルとして、たとえばいくつかの会場で同時開催のフェスを企画して、みんなで流れ星を見上げるような、壮大なお祭りとか。あとはすごく大きな豪華客船。海の上は光がなくて、とてもきれいに流れ星を見られます。『流れ星を連れて来る船』。船のコンセプトも『日本文化を体験できるような設備を積んで世界の港を廻るもの』や『子供たちに科学の楽しさを学んでもらいながら星を楽しめるもの』など、いくつか考えています」  

聞くだけでわくわくするような次世代のエンターテイメントが、まさに企まれている。

ビジネスについて熱く語る岡島さん

 「それと同時に研究機関とも協力して研究開発していきます。超高層大気に関して今までにないデータが採れたり、自然界の流れ星や隕石のメカニズムについての新しい知見が得られれば、アカデミアでの基礎研究に貢献することもできます。現在の研究開発の段階でも、共同研究している研究室の論文に私たちを共著者として載せて頂いたこともあるのです」   

「研究がマネタイズされ、アカデミアに還元されていく」という視点も、決して忘れられていない。だんだんと、話をする岡島さんの目の輝きが増してきた。本当にやりたいことを追い求めている人の顔だと思った。

自分は研究者には向いていなかった

今では夢を追い求めながら、ビジネスとアカデミアの両立をしている岡島さんの学生時代とはどのようなものだったのだろうか。 「大学の学部時代、どのような学生生活を送ってこられましたか?」 

「学部の時から天文学科でしたが、私が入った年は進振りの歴史上でも珍しい”天文学科の定員割れ”が起きたんです。当時は『入っちゃった』という気分でしたね。なので、周囲の頭の良さに常に圧倒されていて。 2年生の冬学期には理学部の複数の学科が合同で受ける授業がありましたが、物理学科の学生たちが私には理解できない数学の話題を楽しそうに笑いながら議論していて、世界が違う印象を受けました」 2年冬学期に筆者も(おそらく同じ教室の後ろの方の列で)思ったことである。10年前にも大教室では同じような光景が広がっていたようだ。

 実は岡島さんは学部時代に一度会社を立ち上げている。プログラミングの仕事を請け負って天文学科の同期などに委託しているうちに事業が大きくなり法人化することになったという。学部時代から行動力のあるタイプだったらしい。 

学生起業の経験をもって、理学系の大学院に進学して博士まで研究をしていた時代の岡島さんの脳内、気になる。 

「大学院時代には研究に明け暮れながら中には就活を同時並行で進める学生もいたりして、大学院を出た後の進路について考えることが多いと思うのですが、岡島さんはどんな経緯で進路選択をしていったのでしょうか?」

 「進路として研究者も視野に入れて大学院にも進学しましたが、研究する中で『自分は研究者には向いていない』と思いました。研究者に求められる素質ってあるじゃない?クリエイティブな仕事や、理論の細部のさらに細部を詰めていくことだったり、寝食を忘れて研究に没頭できることだったり…」 

 …すごくわかる。筆者の周りにも「とりあえず院には進むけど、研究に適性がなかったらどうしよう…」と不安に駆られる学生も多い。

研究者に求められる資質ってありますよね?

「私の場合、この“寝食”を忘れられなかった。お腹がすいたら食べたいし、眠くなったら寝たいし。でも宇宙や天文は好きだから、生きていくうえで自分の学んだ天文学を活かした仕事をしたいとはずっと思っていて、その思いがALEでの仕事につながっています」 

スーパーウーマンのように思われた岡島さんの一般人らしい側面が垣間見れた瞬間だった。

院で研究した後、就職って大丈夫なの?

就活の状況は学年が上がるごとに厳しくなっていったという。当時の新卒採用では学生の実家などに企業から採用に関するダイレクトメールが送られてきていた。 

「私の時代は今のような就活に利用できるSNSも少なかったから、企業の採用活動のスタイルも違っていました。学部3年の頃から、大企業からは採用情報の資料が家にもう大量に送られてきて。でも大学院に行って修士の学生が就活する頃には、そのダイレクトメールの量が半分くらいになりました。青田買い的に一括採用して自社内で育て上げるために、大学院卒の採用に消極的だった日本企業の性格ですね」 

 今でこそ大学院生・超高学歴のための就職支援サービスなどもあるが、当時の大学院生の就活事情、推して知るべし。

 「そして博士課程にまで進学すると、そういったDMは全然来なくなりました」

 …推して知るべし。 

 ただ大学院修了者の採用に積極的な外資系企業からは声が掛かることはあり、岡島さんは博士課程修了後、ゴールドマンサックスの投資を行う部門に就職する。

就職の話に思わず身を乗り出す取材陣

「大学院で学位をとった経験と就職、実際のところどんなふうにリンクしているんでしょうか?僕も正直不安なんです……」 

「人と話すのが嫌いでなければ身につけた専門性やスキルはプラスに働くと思いますよ。中には本当に人と関わったり外に出ていったりするのが苦手な人もいますから」

 スッ……(筆者の不安が少し解消される音)  

「しかしリーマンショックなどもあって、約一年でゴールドマンサックスは退職しました。私の場合、研究者にも向いてなかったけれど会社員にも向いてないんじゃないかと、勤めていくうちに思うようにもなって」

  筆者自身の脳内会議でも折に触れて議論の俎上にあがり、堂々巡りを続けている懸案事項の一つである。 

 「そこからの転職活動はとても苦労しました。30歳近くになって、職歴が1年だけですから。全然相手にしてもらえませんでした。その後、新興国コンサルティングの会社を立ち上げるのに参加することになって、コンサルティングの仕事をしました」  

自分で立ち上げることによって窮地を切り開いた岡島さん。やはりそのパワーは並外れている。 

「そのころから実は、自分の中にアイデアとしてあった人工の流れ星の開発を並行して進められればいいなと思っていました」

  困難の中で、本当の野望が芽を出そうとしていたわけだ。宇宙や天文を活かしたいという思いは、ずっと温められ続けていたのだろう。

 「でもその頃に妊娠していることがわかったんです。子どもが生まれたら確実に時間は限られてくる。それを考えたら自分の本当にやりたいことだけやるべきだと思って、出産後はALEを始めて流れ星の事業に集中することにしました。金融業での仕事やその後のコンサルティング会社の設立も、事業を成り立たせていくためのしくみやお金の流れを学ぶという意味でまったく無駄ではなかったです。学生時代にも、面白いと思ったことにはとりあえず首を突っ込んでいく姿勢が大事だと思います。意外なところで意外な経験が役に立つものです」

やりたいことを抽象化してごらん

「最後にご自身のキャリアを振り返って今の迷える学生たちにメッセージをお願いします」 

「研究者以外の道を、となったときに、私はどうすれば天文・宇宙の分野に関わっていけるかを考えていました。だから学生には『自分がやりたいことをできるだけ抽象化してごらん』と言いたいです。

私の場合、それは宇宙科学というジャンルであれば良かったんです。私は大企業で働くタイプではないと感じましたが、博士をとった後、大きな会社組織のなかでやっていけるなら、それはそれですごいことだと思います。 研究者か企業かというのは手段の問題であって、目的と取り違えてはいけない。

今に至る道のりは狙いすました部分が半分、試行錯誤の末の結果が半分といったところですが、目的がはっきりしていればどうにかして自分の目指すものにたどり着けるはずです」 

本日はありがとうございました!

「自分が本当にやりたいことは何か?」それを問いながら行動していればいずれ行きつくべきところに行きつくのではないか。その行き着く先はアカデミアか、公的機関か、もしくはビジネスの世界か、結果はどうなるかわからないけれど。

 ……しかし博士を取って、「ほんとうにやりたいこと」のために会社まで立ち上げた人の言葉は説得力がある。

いずれにせよ、岡島さんみたいに目を輝かせて仕事をする大人になっていたいなぁと思ってオフィスをあとにした。

この記事を書いた人
Tak Jin
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