難問には、中毒性がある。
多かれ少なかれ、その毒に冒されてきたからこそ、私は東大生なのだろう。
前回戦い続けた「カルビ専用ごはん専用カルビ」の難問は、まだまだ全然終わっていない。
むしろ、ここからが面白いところなのだ。(東大生が4時間本気出して議論したから、それはもう、どう本気出しても1記事にはまとまらない)
まずは前半をざっとおさらいしていただくことをお勧めする。
さぁ、戦いを再開しよう。
前回私たちは「カルビ専用ごはん専用カルビ」の存在を証明できた。
いや、「カルビ専用ごはん専用カルビ」の存在を認めてしまった。
と言うべきだろう。まさにそのせいで、ここから我々は、もはや終着のない、「無限のカルビ丼探求の闇」に葬られることとなる。でもあきらめずに、その深淵まで、ぜひ着いてきて欲しい。
前回最後に、新たに生まれた問いは以下だ。
「カルビ専用ごはん+カルビ専用ごはん専用カルビ」の組み合わせは、本当に「究極」なのだろうか?
2度あることは3度あるという。
「カルビ専用ごはん専用カルビ」があると分かった以上、それより上に、「カルビ専用ごはん専用カルビ専用ごはん」の存在の可能性を否定できるだろうか?
そう。我々が立ち入ってしまったのはこのループである。つまりもしかすると、
カルビ+ごはん<カルビ+カルビ専用ご飯<カルビ専用ご飯専用カルビ+カルビ専用ご飯
この不等式にはまだ先があるのではないか?
カルビ+ごはん<カルビ+カルビ専用ご飯<カルビ専用ご飯専用カルビ+カルビ専用ご飯<カルビ専用ご飯専用カルビ+カルビ専用ごはん専用カルビ専用ごはん<カルビ専用ご飯専用カルビ専用ごはん専用カルビ+カルビ専用ごはん専用カルビ専用ごはん<カルビ専用ご飯専用カルビ専用ごはん専用カルビ+カルビ専用ごはん専用カルビ専用ごはん専用カルビ専用ごはん・・・
うわぁぁっぁぁああああ!!(ガバッ)
悪夢である。
無限の最適化。こんなことがあるんだとすると、「カルビとご飯の究極組み合わせ」は未来永劫、出てこないことになる。終わりなく進化し続けるのだ。
しかしこんなことがありうるだろうか? どこかにあるはずの最適な組み合わせを探しているだけなのに、いつまでもさまよう羽目になるだろうか? なんというかバカすぎない?
このあたりの議論は、我々東大生4人もさすがに混乱した。しかしそれを救ったのが、かの有名(になるはず)な「福田の実験(2016)」である。
解説すると、仮にこの世にはカルビA~DとごはんA~Dしかないとして、点数表を作ってみたのがこの「福田の実験(2016)」である。
前回整理した〔専用〕と<専用>に注意しながら、この図を読み解いていく。
①まずは「カルビ〔専用〕ごはん」を見つけるために、「ご飯Aと一緒に、すべてのカルビを食べたときの平均点」を計算していく。これをご飯Dまで繰り返す。
②平均点が一番高くなったものが「カルビ〔専用〕ごはん」になる。この図ではご飯Aが「カルビ〔専用〕ごはん」である。
③次に、「カルビ〔専用〕ごはん」であるご飯Aと組み合わせたときに最高点になるカルビを探す。当然カルビAになる。つまり、「カルビ〔専用〕ごはん<専用>カルビ」はカルビAだ。
実に美しく、ここまでの議論が整理された。具体化してみると分かりやすいものだ。(こういう考え方は東大入試でも多分使えると思う多分)
(※忘れた人のために専用の概念を再掲しておく)
A〔専用〕B は、あらゆるAの平均(理想A)にBが最適化しているのに対して(平均最適化)
A<専用>B は、「そのA」に対して最適化すればよい(局所最適化)
ここからが問題である。つまり、「カルビ〔専用〕ごはん<専用>カルビ<専用>ごはん」は、あるのか。ごはんA以外になりうるのか、ということである。
④「カルビ〔専用〕ごはん<専用>カルビ」であるカルビAと組み合わせたときに最高点になるご飯を探すと、カルビCになる(!!)よって、「カルビ〔専用〕ごはん<専用>カルビ<専用>ごはん」はごはんCである。
これではっきりする。
少なくともこの点数表では、「カルビ専用ご飯専用カルビ+カルビ専用ご飯(カルビAとごはんAなので7点)」よりも、「カルビ専用ご飯専用カルビ+カルビ専用ごはん専用カルビ専用ごはん(カルビAとごはんCなので10点)」のほうが美味しい。
確かに点数は恣意的である。(ごはんCに至ってはカルビAだと10点なのにカルビDだと0点になる。なんだその差。)しかし、論理的にありうるということがはっきりした。しかも実際にはごはんもカルビも無限に近いバリエーションを作れる。ブレが起こることは十分にありうるだろう。
つまり、
「カルビ専用ごはん+カルビ専用ごはん専用カルビ」の組み合わせは、「究極」とは限らない。
※別の方法でこのことを示すなら、「ごはん専用カルビ」がありうる(!)という議論もできるだろう。まず先にカルビを最適化したわけである。同じ図を使って考えると、「ごはん専用カルビ専用ごはん」と「カルビ専用ごはん」は異なる。
直感に反することだが、「ごはんをカルビに最適化して作った組み合わせ」と「カルビにごはんを最適化して作った組み合わせ」は、美味しさが違いうる。この時点で、「ごはんを先に最適化した」牛角の試みが「究極」だと決め付けるのは非常に危険だと分かるだろう。
ともあれ牛角は、カルビ専用ごはん専用カルビという発想に舞い上がったあまりに、大きな早とちりをしてしまったのである。
そう。牛角が思うほどには、「何かの組み合わせを本当に最適化すること」は、簡単なことではないのだ。
では今度こそ、牛角は嘘をついたと断罪しなければならないか。
待っていただきたい(思い出していただこう。我々4人は牛角が大好きであり、なんとか助けたいと思うあまりにめちゃくちゃ長い議論をしているのだ)
あえて彼らは「究極」と言った。ここにこそ、彼らの「妥協を許さない、肉とごはんへの想い」が詰まっていると知ったとき、読者諸君は感動の涙を流すことを禁じえないだろう。
その秘密は、「カルビ専用ごはん」を出してから「カルビ専用ごはん専用カルビ」を出すまでの、謎の空白期間に隠されている。
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