映画『シン・ゴジラ』
『ゴジラ』(1954)から始まるゴジラシリーズの第29作。
そもそも『ゴジラ』は当時社会問題となっていたビキニ環礁の核実験に着想を得て製作された社会的なメッセージを強く持った作品で、子供だけでなく大人も楽しめる作品になっています。
そして今作『シン・ゴジラ』は”現実(ニッポン)対虚構(ゴジラ)”というキャッチコピーを掲げ、現実の日本と虚構であるゴジラとの闘いを描く中で様々な メッセージを投げかけており、各方面から反響を呼んでいます。
つまり、東大生が好き勝手語るにはもってこいの映画です。
というわけで今回は、破壊光線並みに『シン・ゴジラ』をぶった切るレビュー・考察たちをご紹介します。
以下ネタバレになるようなことも含まれているので、まだ映画を見ていない人はご注意ください!
—まずこちらのレビューです。
シン・ゴジラの感想として専ら散見される、いわゆる「官僚批判」
『前例がない』
『確実に言えないことは断言はしてはダメだとあれほど言ったじゃないですか!』
『未曾有の事態ゆえ、各省庁間での仕事の割り振りにてんてこ舞いだ』
『会議一個開くのにどうしてこんなに書類手続きが必要なんでしょうか…』
映画に実際にあったこういった台詞や、周りに何度も判断を促される首相像、前例にないことを嫌い、判断を下すことを避けたがり、下から入ってくる情報に振り回される閣僚たち。
どうしてスパッと上手く物事を進めてくれないのかッ!と、見ていてイライラした方も多かったのではないか。
しかし、である。そこで私たちが期待しているのは結局、
「正しい判断をして正しい結末に導いてくれるヒーロー」なのではないか。
その「ヒーロー」には、一回のミスも失敗も許されない。
「逃げ腰の」上層部に対し、己の意見を明確に主張する矢口(長谷川博己)は、一見はそんな「ヒーロー」だ。しかし実際は、矢口は最後まで何か大きな決断を下すなどの個人プレーを見せず、チームのまとめ役に留まっている。
ゴジラ凍結は、チームの努力を土台として、役立たずと思われていた暫定首相が頭を下げたなどの外部要因が上手く積み重なった結果、つまりは「個々のポテンシャルが引き出された上で歯車がうまくかみ合った」、ある意味での「幸運」による成功だった。決して、「矢口という革新者の手による成功」ではない。
矢口はチームの士気を高めたリーダーにすぎず、「ヒーロー」ではないのだ。
昨今の政治批判や官僚批判も、そういった「ヒーロー願望」に基づいて官僚全体を総体として「できそこないヒーロー」に据え置いた、自分を観察者視点に置いた上での批判でしかない。
上記の批判内容にだって、それぞれそれなりの理由があって現状の仕組みがあるし、ベストではなくともベターであるものも多いのだ。
彼らだけではなくて、今そこにいる私が、あなたが、歯車を狂わせている原因なのかもしれない。
—「矢口はチームの士気を高めたリーダーにすぎず、「ヒーロー」ではないのだ。」
官僚批判批判ともいえる新しい視点からのレビュー、僕らも丸の内のビル並にぶったぎられてしまいました。
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—続いては、こちら工学系研究科 化学生命工学専攻の方から頂いたレビューをご覧ください。
シンゴジラ、最近見た映画の中では一番面白かったです。ただ一応大学で細胞とかDNAとか勉強しているので、ゴジラの設定に関する場面では内心かなり突っ込んでしまいました(笑)
まずDNAの量と進化の程度ってそれほど関係ないはずなんですよ(遺伝子の数で考えたら、人間よりトウモロコシの方が多い)。だから別にDNA量が人間の8倍でもゴジラが一番進化しているってわけじゃないぞとか。
あと進化って本当は何世代にもわたって一種類の生き物が変化していくことなので、これを進化って言っちゃったらポ○モンと一緒だぞとか。
そうかと思えばトロンビン(かさぶたとかができる時に必要なタンパク質)で血液凝固剤を作る、みたいに普段見慣れている専門用語が出てきたりして、妙にリアルだなあと思いましたね。もちろん架空の生き物についてのことなのでゴジラの身体の仕組みとか現実ではあり得ないのですが、
「もしかしたらあり得るかも」
って一瞬考えてしまうくらいにはリアルな用語や設定が出てきていたので、観終わったあとに調べてみるのも楽しいですよ。
個人的には教授のゴジラ研究そのものもかなり気になりましたね。予算どこから取ってきてたんだろう…。
—遺伝子の数だけ見たら
シン・ゴジラ>トウモロコシ>人間
となるわけです。さすがのシン・ゴジラもトウモロコシに比べられちゃ敵いません。
—さて、続いてはこちらのレビューです。
カヨコ・アン・パタースン ― 石原さとみが演じる日系3世のアメリカ特使、将来のアメリカ大統領を狙うスーパーウーマンである。ならば、英語のレベルは”ネイティヴ”であるはずだが、カヨコ/石原さとみの英語は実際どうなのか。
帰国子女の自分が聴くと、彼女の英語は明らかにジャパニーズ・アクセントを帯びた英語だ。アメリカ訛りの影響も多少感じられるが。では、これは
カヨコ/石原さとみの英語が下手だという証なのだろうか。
私はそうとは言わない。発音が生粋のものではないことと英語力が低いことは必ずしもイコールでないからだ。彼女は滞りなく台詞を述べ、通じる英語で堂々と受け答えしている。世界中の人々に用いられ、英語自体も多様化している昨今。
石原さとみの活躍は評価されるべきだと思う。
それでも、カヨコという人物の設定上、英語は完全なるアメリカ訛りであるべきでジャパニーズ・アクセントでは不自然だと感じる人もいるだろう。一理あるかもしれないが、その不自然さこそ魅力ではないか。
英語だけでなくカヨコの日本語も変だ。苦手な敬語は使わず、そのルー大柴的な話し方に観客はまんまと苛立たせられる。
そもそも巨大不明生物が東京を襲うという信じがたい筋書を真面目に愉しむ作品である。カヨコ・アン・パタースンという如何にも嘘っぽいキャラクターだって楽しんでしまうがいい。ただ、石原さとみが可愛いのは真実である。
—英語だけでここまで突っ込めるとは……!結局、石原さとみが可愛いので
No problemですね?
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—続いてはこちらのレビューです。
1954年11月発表の初代ゴジラはビキニ水爆の結果だった。アメリカが核実験を重ねたせいで出現した怪獸が日本を襲う、というシナリオである。最初の被害者が船であることもあいまって、同年3月の第五福竜丸事件と強く重なる。
今作は新たに福島第一原発の事故を材料として組み込んだ。
シン・ゴジラは体内の原子炉から活動エネルギーを得ているし、初代ゴジラと同じように放射性物質をばら撒きつつ移動している。しかも初代の「被曝したから放射性物質が体にまとわりついている」のとは根本的に異なり、「体内にある原子炉から放射性物質が漏れてる」という強気の設定だ。
さらに、ゴジラはアメリカが既に研究対象としていた生物で、その事実を隠そうと米国から様々な横槍がささる。
あまりに皮肉な設定である。
初代ゴジラはパニック映画、特撮映画としての側面が強く、原子力のテーマは伝わらないこともあったが、本作では広島・長崎の写真や折り鶴が劇中出てくるなど、原子力のテーマをが万人に伝わる工夫がされていた。
誰しも共感、反感や疑問を得られたのではないだろうか。例えば僕は首相の
「放射能に関しての発表は内容が内容だから確認が取れるまでまだやめといた方がいいんじゃないか」というセリフを聞いて笑ってしまった。
しかしすぐさま①やっぱ笑えねえよと思いなおしたし、②首相にとって決断というのは唯一の仕事なのに何故正念場で責任を放棄するのかと疑問に思った。福島第一原発のときはどうだったのだろう。
物語の後半では何故か官僚ヒロイズムが盛り上がり、ゴジラの冷却・沈静化に成功してしまう。原爆で東京ごとぶっつぶそうとしている全世界の意向に対し、原子炉を止める作戦が情熱的に遂行されたのだ。
無論この解決法にリスクが全く無ければ最善の手段をとったことになるのだが、果たしてそうだろうか。
あるいは今後も付き合っていかなければならない「荷物」として原発と重ねるための工夫だろうか。後者ならば「ゴジラは沈静化したが、地下水が汚染されている!」とかも考えられる。やりすぎだろうか。
『シン・ゴジラ』を見た方、是非『ゴジラ』と見比べてみましょう。この斜め上からの視点、まさに「シン・レビュー」です。
—さて、最後は理学系研究科化学専攻助教の方から頂いたこちらのレビューです。
シンゴジラの容姿について、どのようにお考えだろうか?皮膚から赤いものが見えている。
これはおそらく、チタンサファイアの結晶である。
サファイアというと、多くの方は青い宝石だと考えていると思われる。しかし、サファイアもルビーも主成分は酸化アルミニウムであり、その中に存在する不純物の種類によって色が異なるのである。
サファイアに不純物としてチタンを混ぜた結晶がチタンサファイアである。さて、このチタンサファイア、実は
科学実験で用いるような非常に強い強度のレーザーを発生させる媒質
として使われているのである。
通常のレーザーでは数ミリの大きさの結晶が使われていることを考えると、シンゴジラに含有されるチタンサファイアの量は尋常ではない。
しかし、チタンサファイア結晶によって作られるレーザーは近赤外線の領域であり、我々の目では赤色に見える。一方、シンゴジラの口から放出される光線は白い。
これが意味していることは何であろうか?
そう、シンゴジラの体内で、赤色の光が白い光に変換されているのである。
白色光への変換は、光強度を高めるために使われる手法の一つであり、詳細は省略するが、おそらく体内での損傷を抑えるために光パラメトリックチャープパルス増幅(OPCPA)を行い、その後中空コアファイバーを用いた自己位相変調によってスーパーコンティニューム光を発生させ、最後に口腔内に配置されているであろうチャープミラーによってパルスの尖頭出力を最大限に高めているものと考えられる。このような超短パルスを考える上で大事なパラメーターが、搬送波位相(CEP)である。搬送波位相にはsin型とcos型の二つがある(図を参照のこと)。
シンゴジラの「シン」の意味については諸説あるが、私が考えるに、これは
光線の搬送波位相が”sin”型であるということを示している。
この点を踏まえてシンゴジラを鑑賞し、現代の光科学の最先端を感じていただきたい。
—「sin・ゴジラ」ってそれじゃ……
「サイン・ゴジラ」じゃないですか!?
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様々な分野から破壊力のあるレビューが集まりましたが、『シン・ゴジラ』はまだまだ公開中です。
まだ僕らは「シン・ゴジラ」に勝っていないのです。
是非まだ観てない人はとりあえず映画館へ走りましょう。
一度観た人も、このレビューを観た上でもう一度『シンゴジラ』と闘いに行きましょう。
シン・ゴジラをぶったぎるようなレビュー、お待ちしております。