「【逆・留学記】サンダル一足で台湾から東大にやってきました【言葉の壁をぶち壊せ!】」のサムネイル画像

【逆・留学記】サンダル一足で台湾から東大にやってきました【言葉の壁をぶち壊せ!】

2016.08.04

はじめまして、文科三類2年のかねまさと申します。台湾の埼玉こと新北市出身で、今は東京でサバイバル生活を送っています。家でまったりアニメを鑑賞していた、そんなある日。スマホに一通のメッセージが入ってきました。

「YOU、コラム書いちゃいなよ」

ということで、東大入学までの経緯とサークルのことについて少し語らせていただきます。

「ミーは何しに東大に?」

母校の旧校舎廊下。 よくここをビーサンでうろうろしてた。

話は高校時代に遡る。

私は台北市内の公立女子校に通っていた。ビーサンで廊下を走って先生に怒られたり、教室の窓から出入りしたり、みんなで漫画を読みながら奇声を上げたり、最高にハッピーなゴリラライフを送っていた。進路に関してただ漠然と「国立大学の日本語学科に入ろうかな」と考えていて、目標に向かってダラダラと進んでいた。

私は中学時代から日本の文学が好きだった。初めて読んだものは三島由紀夫の『金閣寺』だったと今でもはっきり覚えている。最初は「外国文学を読むワタシはso cool」的な軽いノリで手を出したが、様々な作品に触れていくうちに、行間から窺える日本文学特有の奥ゆかしさに惹き込まれた。

訳文ではなく原文が読めるようになりたい、日本文学の世界を探究したい。

この思いに駆られ、私は日本語を独学し始めた。(日本のアニメと漫画にはまったのも一つのきっかけだった。ジャパニーズ二次元コンテンツ最高。

高校に入った私は、台湾大学の日本語学科を目指すようになった。外国文学の研究がやりたければ現地に行ったほうがよいと重々承知しているし、日本留学は私の密かな夢だった。しかし、留学に最も必要なのは語学力でもコミュ力でもなく、お金だ。自分の夢を叶えるために家計に莫大な負担をかけるわけにはいかないと思い、留学を諦めようとしていた。

かくして高校三年の夏が訪れた。受験生らしからぬ家でネットサーフィンしていたら、ある募集告知が私の視線を奪った:「公益財団法人交流協会・大学部奨学生募集」

生活費支給あり、授業料全額給付、さらに日本の国立大学に行ける。なんとも夢のような奨学金だった。

ところが、奨学金試験の時期は学科能力測験(≒センター試験)とほぼ重なっていたため、どちらかにしか力を注げない。親と相談した末、「あなたの人生を決められるのは、あなただけ」と言われたので、10枠しかない奨学金のために留学試験に挑んだ。

受験期の机。右隣のデザイン学科志望の人は作品集を、私は二次面接用の書類を作ってた。

申込から結果発表までの道のりは話せば長くなるので割愛する。とにかくつらかった。学科能力測験の前日に登校の電車内で豆乳をこぼしてしまい、精神がやられて「もう無理ですwwwおうちに帰らせてくださいwwww」と担任に泣きつけたら欠席許可が下り、そのまま家に帰ったことだってあった。

結論だけ言うと、学科能力測験で華麗に滑ってしまい、地元の国立大学に足を切られまくっていたが、奨学金に受かった。

それから諸々あり、近現代文学の研究がしたいのと、奨学金受験期に藤山一郎の「東京ラプソディ」をループさせまくっていたことで芽生えた東京への憧れで、東大を受験することにした。東大受験期に何回も迷走したが無事に受かり、来年の春に文学部言語文化学科の国文学専修に進学することに。この場を借りて助けてくださった先生達や友人、そして親に感謝の意を伝えたい。

[広告]

「日本語をどうやって勉強したの?」『エッ、アッ』

刈り上げを入れてから、なぜかよく人に「バンドやってるの?」と聞かれる。それと同じくらいの頻度で同学に日本語の勉強法を聞かれることが多い。

この手の質問をされると、私はいつも曖昧に笑いながらあやふやな返事をしている。たまに「もしかして漫画で?」とさらに訊ねられることもある。そんなとき、私はだいたい「イェア……マンガ……」としか返事できず、沈黙の中で相手とにらめっこする。

二次元コンテンツはもちろん大好き。けれど、それだけで日本語を学んできたとは決して言えない。私はあらゆるものを教材として日本語に関する知識を身につけてきたが、それを「勉強」として意識したことがない。

私にとって日本語は「勉強するもの」ではなく、「身に染みるもの」だ。

日本語をほぼ独学でやっていたため、私の手元に教科書などなかった。そのかわりに来るもの拒まず、2ちゃんねるのスレから青空文庫まで、日本語で書かれたものなら何でも嬉々と読んでいた。好きな文学作品を原文で読みながら「鏡花マジぱねぇ」とか「寺山修司ほんまリスペクトっす」とか、脳内で延々と薄っぺらい感想を綴りつづけるのもまた一興。最初は読解力の不足で理解できないところが何箇所もあった。けれど、文を何遍も反芻していくうちに意味を解るようになった瞬間の清々しさもまた格別だった。

文法の規則も自分なりの纏め方があった。文章の中に気になる表現があれば、それを他の文で見た類似表現との相違点を探り出す。いろんな文章を比較していくうちに語彙の適切な並び方がわかるようになった。動詞の変化はゲームの装備強化システムと似ていて、まずはどういう語幹があるのと、それにつけるパーツの効果を把握しなければならない。無闇にパーツをつけまくって「ぼくが考えた最強の動詞」を作るのではなく、場合に応じて適切なパーツをつけるこそが勇者の流儀。文法の内容を体感し、様々な文章を読んでいくうちに、なんとなく日本語の文法を理解できた。

日本語おもしろすぎる!!!

私はかくしてゆっくりと、一歩一歩進んで、日本語を学んできた。

浅学の輩として、私の日本語は今でもたまに支離滅裂になることがあります。混乱しすぎて母語で返事したり、ラップ調に切り替えたりするけど、それを優しく受け入れてくれる日本人の友達がいるので、私は元気です!

言葉の壁を越えて

日本留学試験と二次面接に通り、私は奨学金に受かって日本にやってきた。国文学研究室での面談と国費留学生入試もなんとか突破し、やっと念願の東大に。

茨の道の果てに私を待っていた最後の難関は、サークル選択だった。

一つ明かしておくと私はコミュ障を極めている。「外人ピーポーだから日本語を話すのにストレスを感じる」とかそういうのではなく、元から人とあまり馴染めない側の人間だった。中国語(台湾華語)がピアノなら、日本語はヴァイオリンのように繊細な言語だとよく言われる。

しかしながら私は母語さえ上手く操れず、ピアノの鍵盤を頭で突くタイプのゴリラだった。不慣れなヴァイオリンを手にとっても「4分33秒」しか弾けない。

ならばヴァイオリンをぶち壊してフロアをロックするしかない。

なんてことはもちろんできない。

まともに人と話せない私が「コミュ力=命」の大学サークルに入るなんて無理。飲み会で唯一発した言葉が「アッアッすんません、ウーロン茶一つお願いしまフ」な未来まで見えてきた。

途方に暮れたそんなとき、私は思い出した。高校で漫画研究会を所属していたものの、まともな漫画を一度も描かなかったことをどれだけ悔やんでいるかを。私は三年間ずっと小説を書いていたが、何百文字も費やした描写をたった一枚のイラスト、一ページの漫画で表せる友人が羨ましかった。

言葉で自分の思いを表せないなら、絵で伝えるしかない。

かくして、私は東大まんがくらぶの扉を叩いた。

今まで漫画を描いたことのない私がいざ自分で描こうとすると、それはそれは大変だった。

東大まんがくらぶが発行してる無料漫画週刊『スカラベサプリ』第84号の表紙。がんばりました。

東大まんがくらぶで発表した最初の作品は4コマ漫画だった。ボリウッド音楽を流しながら深夜のハイテンションで思いついたことをそのままネタにした挙句、「何が言いたいのかわからない」というコメントがほとんどだった。

私は漫画で意思疎通を図ろうとしていたが、ネタがまったく伝わらず、正直言ってショックだった。中には、地元でとてつもなくウケたのに、日本人には全く通じないネタもあった。

漫画を描くというのは、自分が「おもしろい」と思うものを一方的に読者に押しつけるのではなく、ネタがちゃんと読者に伝わるように、いろんな工夫をしなければならない。

日本人でもクスッとくる、けれど台湾人特有のユーモアもたっぷり詰め込まれている漫画が描きたい。

そう思いつつ、私は最初の経験を鑑に自分の軌道を修正していき、手探りでやりながら今に至った。

うまく言葉で表せない自分の頭の中にあるものを、漫画に通じて伝えたい。そういった思いを胸に、私は今日も何かしらを描く。

こんな感じの4コマを描いています。(東大まんがくらぶ正会誌『スカラベサクレ75』掲載)

[広告]

おわりに

何かを手に入れるためには、必ず何かを犠牲にしなければならない。私は18年暮らしていた南国の島を後にし、一人で東京にやってきた。日本でのいろんな出来事に精神的に追い詰められ、呻きながら格安航空券を検索し始めたことが何回もあった。幸いなことに私は日本でも、東大でも良い友人と同期に恵まれ、人生相談に乗ってくれる相手がいる。

留学生活は笑いあり涙あり。「もうダメだ」と思うとき、私はいつも「あなたは何しに東大に?」と自らに問いかける。

初心を思い出せば、明日も頑張れる。

そして。

最後に、告知がございます。

私の所属している東大まんがくらぶですが、なんと!

UmeeTとコラボ企画をやることになりました!!!

皆様から寄せられた面白いネタを、まんくらの部員たちが漫画化します!!!

下のフォーム(またはTwitterのDM)で今すぐネタを送信☆

UmeeT X まんくらコラボ企画、お楽しみに!

この記事を書いた人
筆者のアバター画像
かねまさ
はじめまして! かねまさです。UmeeTのライターをやっています。よろしければ私の書いた記事を読んでいってください!
記事一覧へ

こんな記事も読まれてます