ー学部生にして学業で総長賞を獲得した人がいるらしい。
しかも理一出身の男子学生で、分野はなんと看護!
彼の名は野寄修平くん。現在、大学院に進学して老年看護学分野に在籍しています。看護師にしてプログラミングや工学系を扱い、ときどきペッパーの中の人もやるという秀才。
っていうか、なぜ看護に? そしてなぜ総長賞を?
気になることがありすぎる……。駆け出しのプログラマーである筆者は、個人的に「医療×IT」はアツいと思っているので、彼を取材させていただくことに!
気になることがありすぎる……。駆け出しのプログラマーである筆者は、個人的に「医療×IT」はアツいと思っているので、彼を取材させていただくことに!
–早速なのですが、総長賞を受賞されたんですよね? 一体どんなテーマで?
簡単に言うと、点滴の針を指す時の血管選択の新手法ですね。それを卒論で書いて受賞しました。
–ほう……新手法とは、具体的に言うと……?
超音波エコーってあるじゃないですか。赤ちゃんとかを見るときに使うやつ。
超音波エコーを使って事前に腕を撮影したものを、専用のヘッドセットに表示しながら血管を探すんです。
–スカウターみたいですね(笑) どうやってヘッドセットに表示しているんですか?
看護師が頭部にカメラを装着して、それで取得した動画に対して画像処理をかけて指先の座標を取得します。そしてその座標を元に超音波検査の画像を表示しています。
患者さんの中には血管が見つかりにくい人もいて、従来の方法なら5人の看護師のうち1人しか見つけられなかったような人の血管も、この手法では全員血管を見つけることが出来ました。
–まさに革新ですね! どうやって思いついたのですか?
病院実習で、血管って見つけるのが難しいな、と思っていて。 また、自分の指導をしていただいた先生の一人が超音波エコーを専門としていたんです。そこから何か組み合わせれないかなぁと。
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–血管を見つけにくいと思ったとき、「血管を見つけるのが上手い先輩の技を盗もう!」「練習しよう!」って普通なら考えると思うんですけど。
野寄さんは、なぜ新たな手法を探そうと思ったのですか?
実は私、元々理一なんですよ。しかも、がっつり工学部志望でした。ものづくりが好きで(笑)
だからテクノロジーで解決しようっていうのはむしろ僕にとっては自然な発想で。
–その進路、気になってたんですよ! 一体どうして看護を専門とする道へ進まれたのですか?
駒場の前期教養課程の総合科目に、『看護科学概論』という授業があったんです。その授業で看護って面白いな、と思ったのがきっかけですね。
–リベラルアーツな東大のシステムに恩恵を受けたというわけですね。その授業で何か印象に残ってることはありますか?
そうですね、『お風呂の話』ってのがあって。
日本人は世界的に見てもお風呂が好きな民族らしいんです。
ある寝たきりの日本人の患者さんがいて、その患者さんが死ぬ前にお風呂に入りたいっていうんですね。でも医師的にはお風呂に入るともう命が危ないみたいな状況で。
こういう状況でどういう選択をするのか、という話でした。
–究極の選択ですね……。
医者は基本的には「亡くならないようにする」という側にしか立っている(この例だと風呂には入らせない)のですが、看護師は患者さんの幸せを追求するので、そうとも限らないんですよね。
例えばこの話は結局、患者さんのQOLや症状を見て、看護師が親族や患者さん本人に説明して、お風呂に入るという選択をします。そして患者さんは納得のいく死に方ができた、という話なんです。
–深い話です。
医療従事者で、患者さんが幸せかどうかという複合的視点は看護特有ですし、実際入院患者さんに一番長い間接している医療従事者は看護師なんですよね。その辺がすごくおもしろいなあと思いました。
–その授業こそが、看護の面白さとの出会いだったわけですね。
–とはいえそこから本当に健康総合科学科へ進学する人ってあんまりいないですよね。健康総合科学科って女の子ばかりなイメージですし、理一男子って結構アウェイになりそう(笑)
他の多くの大学では1学年80~100人中、男子10人くらいでアウェイかもしれませんが、 東大の場合、 健康総合科学科全体で男女比がほぼ1:1で看護学コースは自分たちの代は男6女5だったので、全然大丈夫でしたね。
–今回の総長賞受賞は、そうやってモノづくりが好きな理一男子の野寄さんが健康総合科学科に進んだからこそ生まれたわけですよね。
そうですね。たまたま駒場で受けた授業によって進路が大きく変わったのですが、結果今とても充実してるし、総長賞も受賞できたので、悔いはないどころか素晴らしい学科に出会えて幸運だったな、という気持ちです。
–これからの進路はどうされるんですか?
博士課程に行く予定です。新たな技術だけではなく新たなソリューションを探して、看護をより良くする研究をしたいです。我慢させない療養生活を目指します。
理一男子の視点があったからこそ、イノベーションが生まれた。そしてそのきっかけは、駒場の授業でした。
授業も捨てたものじゃない。たまたま今受けている授業が、あなたの人生も変えることがあるかもしれませんね。
これからも彼にモノづくりという変わった視点から看護に切り込んで行ってほしいです!