最近、後輩たちの就活が本格化したのを横目に見ながら、思い出してつらくなってきてます。編集長の杉山です。
何がつらかったかって、全然内定をもらえなくてつらかったんですが、むしろおかげさまでやりたいことに突き進む踏ん切りがついて、今となってはめっちゃ楽しいです。その結果もう就活してません。する予定もないです。
でもこれがあまり理解されず、数回に渡り公共の電波でも拡散され「就活失敗芸人」化してたり……。
そんな僕が、今回あえて、ホントにあえて、インタビューさせていただくのは、「『就職』の本質を考える」がテーマの雑誌『type就活』(※2016年4月より『就活type』から媒体名を変更したそうです)の編集長、伊藤健吾さんです。

伊藤さん 迫力のあるお顔
就活を考え抜いたプロであるtype就活の編集長さん。この就活やめちゃった僕に一体どんな手厳しいダメだしが来るのか……。
内心ビクビクしながら、まずは僕の現状と決断を話してみました。
ざっくりまとめると、「就活で行きたいところに受からず悩んだ挙句に休学し、自分のやりたいことがはっきりしてきたので、それで生活していけないか挑戦している」ということです。

伊藤さんの圧倒的インタビュー力。「あれっ? 取材してんのどっちでしたっけ?」ってくらいしゃべってしまいました。
反応は「なるほど、良いと思いますよ」でした。
最悪「就活しろよ社会なめてんじゃねぇぞ」みたいな感じで、ガチ説教されるのもありえると思ってたんですが意外にも好反応。
「僕らだって正しい就活がなんなのかなんて分からない。分からないからこそいろんな人の考え方を知りたいっていうのが『type就活』だし、だからこそ「就職の本質とは何か」を一緒に考えるというのが媒体テーマなんです」
なるほど。こうすればいい! ってアドバイスを押し付けるのではなく、一緒に探求していこうというスタンスなんですね。安心しました……。

胸をなでおろすの図
「やっぱり人の数だけ就活の形があります。感じることも考えていることも違う。そういう意味では、就活を通り過ぎた人が、何か分かったような口ぶりで決め付けるのってナンセンスだと思うんですよね」
ほんとにそうですね。人によって悩みは違ってしかるべき。決め付けたアドバイスって、善意だと分かりつつも辛いものがあります……。
就活の難しさとは何なのか
就活の形はさまざま。とはいえ、かなりの人に共通するのが、なんらかの痛みを伴うってことじゃないでしょうか? 僕もそうでしたけどなんとなく目が死んでる人多いと思うんですよ。
「みんな何かしら考えさせられるタイミングになりますよね」
就活の辛さって何なんでしょう?
「就活というシステムで、確実に不条理だと思うのは、期間が決められているところだと思います」
1年とか、場合によってはたった数ヶ月で、決めなきゃいけないことになってますもんね。
「就活で問われる『働くって何だ?』というテーマって、一生考えなきゃいけない問いなんだと思うんです。いい機会ではあると思いますが、日本のように一律で制限時間が設定されているような雰囲気は辛いですよね」
まぁそんなの自分で延ばそうと思えば延ばせたりするんですけど、金銭的な問題とか、周りの目とかがありますからね。新卒でどこか入るのが「全うな人生」、みたいな。
僕は力強く踏み外したわけですけど。

就活真っ只中の取材陣
「それと、就職してから実際にどんな仕事ができるのかって、学生が事前に知ることができることは、どうしても限られています」
インターンとかOB訪問とかでも、どちらかというとお客さん扱いされちゃうことも多くて、本当の姿は分からなかったりしますよね。
「なりふり構わず、就活のルート上にない方法も使うべきだと思いますよ。バイトとして潜入してもいいし、人づてにひたすら辿っていってもいいわけですから」
本当の姿を知りたいのなら、分からないなりに動くしかないってことですね。
自分の好きなことに突っ走るタイミングはいつ?
でもそうやって動いてみても、「本当にここでいいのか」ってなかなか自信が出ない。自己分析で「自分の本当に好きなものってなんだろう」とか考え始めると、深く掘ろうとするほど、何も見つからないんじゃないかと怖くなったり。
「就活が始まるときに、誰もがやりたいことをはっきり持っているわけじゃないですからね」
好きだと思うことがあっても、それが仕事にできるような自信なんて誰にもないと思うんです。それでも好きなことを始めるのは、早いほうがいいんでしょうか。
「すでにあるのなら、絶対早いほうがいいです。やってみるしかない」

でも、「やりたいこと」の種類によっては、それに気づいてしまったせいでむしろ辛くなっちゃう、みたいなこともありえませんか? 普通に就活してできそうな仕事との全然違う「やりたいこと」、例えば売れないバンドマンとか。
「これから長く働き続ける上で大切なのは、やりたいことを自分でうまく、売れる形にする力じゃないでしょうか。これは、かつて取材をさせてもらったDeNA創業者・南場智子さんのお言葉ですが、若いうちに『事を成す』経験を積むのが大事なんだと。つまり、仕事をしてその対価を得るまでのPDCAサイクルを、早い段階で一通り回してみる経験が肝なんです」
確かに好きなことでお金を稼ごうと思うと、それを元にしながらも、売るために差別化したり、別のフィールドに移ったりと工夫する必要がある気がしています。そのためには経験こそが力になると。
「あるいは、すでにその業界で稼げている人のところで一緒にやらせてもらうという手もあります。まずはその世界になんとか入り込むということです。
実は僕も本当に就活で悩んだんです。僕の場合もやりたいことはかなりはっきりしていて、サッカージャーナリストになりたかったんです。サッカーが好きで、書くのも好きで」
そうだったんですね。
「でも、サッカーを扱っている出版社はほとんどが中途採用ばかりで、応募してもことごとく落ちてしまい……結果、大学卒業後の半年間はフリーターをしてました。食べるだけならバイトでも十分お金は稼げる。正直、このままでいいかもなと思ってしまったときもありました」
これは驚きの事実です。就活を扱う編集長さんにこれほど苦戦していた過去があったとは。
「そんな中、面倒見のいい先輩が、『サッカーじゃなきゃダメとか贅沢言わずに、どこでもいいから出版社に入ってみろ』とアドバイスしてくれたんです。それで、たまたまアルバイトを募集していたのが、のちに『type就活』を創刊したキャリアデザインセンターの編集部だったんです」

まずは編集の世界に入り込もう、というきっかけだったんですね。
「やりたいことから少しずらしてでも、飛び込んでみることが必要です。自分がやっていきたい世界で、『ちゃんと稼いでいる人』と一緒に働いて分かることはとても多いんです。
サッカーにこだわる前に、まずは有能なライターさんや有能な編集者の仕事を実際の現場で見る必要がありました。この転換が無かったら、あのままずっと、ぼんやりと夢だけ描いて何も行動できていなかったんじゃないかと思います。
そういう意味で、できるだけやりたいことに近くて、いい人がいる現場に行くべきです」
次ページ、「東大生のメインストリーム中毒」について迫ります。
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