「「親の目を気にするな」東大卒エロ漫画家が語る進路」のサムネイル画像

「親の目を気にするな」東大卒エロ漫画家が語る進路

2019.11.06

東大を卒業して、エロ漫画家になる。

一体どんなことが起こったら、そんな人生を歩むことになるのでしょうか。

今回、実際に東大を卒業されてエロ漫画家になられた智弘カイさんに、UmeeT編集部がインタビューしてきました。

智弘さんは、元々ガッツリエロ漫画を描かれていたのですが、現在は、週刊少年マガジン公式アプリ「マガジンポケット」のWEB版で、「デスラバ」というエロティックな描写の多い一般漫画を連載されています。

(「デスラバ」の原作の方は別におり、智弘さんは作画を担当されています。

その「デスラバ」ですが、「マガポケ」で人気&売上が圧倒的第1位なのです!

あらすじ:

女嫌いの高校生・藤代康介は学校からの帰り道、突如何者かに拉致されてしまう。
目が覚めると、椅子に縛り付けられ、見知らぬ美少女に嬲られようとしていた!!
そこは男が檻に閉じ込められ、女たちに管理される謎の監獄!!
ここは一体どこなのか?そして美少女たちの目的は!?
謎が謎を呼ぶ、絶望エロティック・サスペンス!!

漫画の世界でも大成功って・・・。

さらに驚くべきことに、「デスラバ」の担当編集の方が、東大で智弘さんと同じクラスだった友達だそうなのです。

なんか、情報盛りだくさんすぎませんか・・・!?

大学時代のふたりの関係や、友達で一緒に仕事をすることについてもお聞きしてきました。

就活に失敗 そして考える本当にやりたいこと

学生証
  1. お名前:智弘カイ
  2. ご職業:漫画家 「マガジンポケット」にて「デスラバ」を週刊連載中

筆者:今日はよろしくお願いします。

それにしても、東大を卒業されて漫画家をされているって異色の経歴ですよね。

やっぱり昔から漫画を描くのは好きだったんですか?

智弘さん:いや、全くそんなことはないです。というより、大学生になっても漫画とは無縁でした。

音感というバンドサークルに入って、楽器ばかり弾いていました。いわゆる漫研的なサークルには所属していませんでしたね。

筆者:ええ!そうなんですか!?東大に入ってわざわざ漫画家を目指されているくらいだから、昔から漫画が好きだったのかと思ってました。

智弘さん:消費者として読むのは好きだったんですけどね。特にエロ漫画は。

実は大学時代、全然漫画を描いていなかった智弘さん。ただエロ漫画を愛読していただけだった。

筆者:じゃあ、どうして漫画家を目指されたんですか?何かきっかけはあったんですか?

智弘さん:まず、僕は就活に失敗してしまったんです。最終面接まで進んだところもありましたが、結局は全て落ちてしまいました。

そして、院試も受けたんですけど、それも落ちました。

それで色々と疲れてしまって、1年休学することにしたんです。

卒論を書くだけ書いて、それを提出しませんでした。

そうしたら、この後どうしようかとなるわけです。

筆者:何をしたんですか。

智弘さん:恥ずかしながら、実家でほぼニートのような暮らしをしていました。

自堕落というほどではないですが、積極的に何かしようとはしていませんでしたね。

ネットで知り合った知人友人も少なくなかったので、彼らと一緒にバンドやったりとか。

そんな生活を送っていたとき、東日本大震災が起きました。

それを受けて、このまま就活を続ける気力がなくなってしまったんです。

震災の影響で企業側が新人採用を控えるという動きもあったので、そんな状態で一回就活に失敗した人間が受かるわけないと。

元々、本音ではそこまで行きたい企業や業界があったわけではないんです。

有名な企業を手当たり次第に受けていくという感じで、だから落ちてしまったんですけど。

きっと親の目を気にしてしまっていたんですね。ああしろこうしろ、と言われていたわけではないんですが、こういう期待をされているんだろうなというのを勝手に内面化してしまって、良い企業に就職しなければいけないんだと考えていたんです。

筆者:確かに、東大生ならそういう風に考えてしまう人は多いと思います。

智弘さん:そうですよね。でも、結局僕は失敗してしまった。その時、親の目を内面化してしまっていたことを自覚して、じゃあそうじゃない自分自身は一体何がやりたかったんだろうと考えたんです。

さっき僕は大学のときに漫画とは無縁だったと言ったんですが、ぼんやりと、将来絵や漫画を描けたらいいなと思ってはいたんです。仕事ではなく、趣味としてですけど。大学時代、絵の練習はほとんどしていなかったけれど、そういう考えだけはありました。

そして、震災を契機として、僕の気持ちの針がぐーっとそっちに傾いたんです。

どうせいつかは絵を描きたいと思っていたんだから、今やろう、これで飯を食おうと。

それが23歳の終わりごろですね。漫画の中でも、僕はエロ漫画が好きだったので、すんなりと迷うことなくエロ漫画を描き始めました。

そのあとはペンタブ買って、ひたすら描いて、ピクシブに投稿してっていうのを繰り返してました。(ピクシブ・・・イラストなどを自由にアップロードできるオンライン・コミュニティ)

筆者:繰り返すってのはどれくらい?

智弘さん:家にいる間はほとんど絵を描いてました。

やっぱりこの時期に絵を始めるというのは遅いんですよ。20代前半に一線で活躍されてる方はたくさんいるので。その自覚が最初からあったので、少なくとも1年は絵だけに集中する生活を送らないとダメだと思っていたんです。

智弘さんの画力は鍛錬あってのもの。

 筆者:すごい決意と集中力ですね・・・。どんなことであれ、何か1つのことだけに絞って取り組み続けるというのは難しいですよね。

そのあとはどういう流れで漫画家として活動していくことになるんですか?

智弘さん:練習を始めて半年経ったころ、二次創作の同人誌を作ったんですね。イベントとか書店に下ろしていったんですけど、それが出版社の編集さんの目に留まりまして、連絡をいただいたんです。それがきっかけで、その出版社さんの雑誌で掲載させていただくことになりました。

筆者:そんなすぐに!

智弘さん:エロ漫画は連載ではなく読み切りが多いので、新人でもとりあえず雑誌に載せてみようというスタイルが主流なんです。

絵の練習を始めたのが2011年の3月ごろで、ちょうど雑誌に掲載する漫画を描き始めたのが2012年の3月ごろなので、漫画家として活動するまでちょうど1年くらいでした。

[広告]

友達と仕事をするのにはいいところと悪いところがある

筆者:今、智弘さんが連載されてるデスラバの担当編集の小山さんは、東京大学で智弘さんと同じクラスだったんですよね。おふたりは大学時代から仲が良かったんですか?

智弘さん:そうですね。一緒に旅行行ったりもしてました。ギリシャ・トルコ1週間の旅とか、九州1周とか。

筆者:えー、仲良いですね!

智弘さん:

共通の友人とレンタカーを借りて2泊3日で東北を巡ったりもしました。

筆者:智弘さんと小山さん、おふたりが一緒に仕事をするようになったのはどうしてなんですか?

智弘さん:僕がエロ漫画ばかりを描き続けて、少し疲れてしまったんですよね。エロ漫画っていうのは読切がほとんどで内容を毎回考えないといけないし、迫力のあるエロシーンを気をぬくことなく毎ページ描いていかないといけないので、描くのに体力がいるんです。

元々、エロ漫画を描こうと思って絵の勉強を始めましたし、当初は一般誌で漫画を描きたいと思っていたわけではないんですが、一度エロ以外の漫画も経験してみたいと思い始めていました。

そして、そんな話を小山にもしていたんですが、ちょうどそのとき、たまたまマガジン編集部で「デスラバ」の作画を探そうということになっていたので、その仕事を小山から提案されました。

デスラバの仕事はたまたま入ったものだった。

筆者:デスラバの仕事を智弘さんが引き受けて、おふたりで仕事をすることになったんですね。

お友達と一緒に仕事をするということについてはどう思いますか?

智弘さん:正直言うと、最初は抵抗がありましたね。色々と面倒くさいことは多いですし。

一緒に仕事を始めて1年半くらいになるんですけど、距離感の取り方が難しいなと感じることは今でもあります。どこまで踏み込んでいいのか分からないので。

言いたいことを言えてしまうから、たまに喧嘩みたいになってしまうこともあります。ただ、最終的には読者ベースで落とし込むという共通の認識があるので、意見が食い違っても時間内に落とし所を見つけるということはできています。

あと、言いたいことを遠慮せず言い合えるので、気が楽ではありますね。

筆者:いいところも大変なところもあるんですね。

智弘さん:実は、一緒に仕事をする前から、小山といつか仕事をするんじゃないか、と予感めいたものを感じてはいたんです。

まあ、ただ「お互い漫画に関わる仕事してるし、いつか絶対一緒に仕事しよう」とかいうのはなかったです。本当偶然でしたね。

筆者:それで結局一緒に連載をすることになったのはすごいですね。

身の丈に合わないことはするな

筆者:大学のときの自分に言いたいことってありますか?

智弘さん:んー、「就活をもっとちゃんとしておけよ」ってことですかね(笑)。

筆者:企業に就職しておけばよかったと思うってことですか?

智弘さん:いや、正直今になってみるとそうは思わないなあ。なら違うのかもしれません。

もともと僕は好きで就活してなかったんですよ。自己暗示をかけるようにしながらやっていたので、そもそも当時の自分に就活を頑張れというのは、やっぱり言えないような気がします。

親の目を勝手に意識して、無理をしながらもいい企業に入ろうとして、結局失敗してしまったので、大学生の自分に言うとするなら「身の丈に合わないことはするな」ですかね。

もっと自分の親と話し合うべきだったし、自分のやりたいことを考えるべきだったと思っています。

筆者:今後についてはどう考えていますか?

智弘さん:そうですね。週刊連載を続けていけるかどうかは分かりませんけど、何らかの形で漫画業界に携わっていけたらいいなとは考えています。この世界に残れるかどうかという不安はありますけどね。

そのためにも睡眠だけはしっかり取るようにしています。ぽっくり死にたくはないので(笑)。

筆者:エロ漫画を描かれている智弘さんにお聞きしたいんですけど、「エロ」って何だと思いますか。

智弘さん:うーん。僕は「禁止と侵犯」だと思いますね。禁じられていたものが破られるとき、そこにエロティシズムが生まれる、というのはジョルジュ・バタイユが言っていたことですが、僕もそれには賛同しています。

エロティシズムの背後には何かしらの社会的規範があって、規範からの逸脱による差異の中にその本質があるとすれば、最終的に「エロ」は社会的な営みなのだと思います。

こういった方向に頭を使ったのが久しぶりすぎて、言語化するのが難しいですね(笑)。

普段描いてる漫画がこれだから、頭使わなさすぎて(笑)。

[広告]

最新刊が11月6日に発売!!

筆者:最後なのでお知らせして終わりたいと思うんですけど(笑)。

智弘さんが連載されている「デスラバ」最新刊6巻11月6日に発売予定なんですよね?

智弘さん:そうです。

東大のみなさんも是非手にとってみてください。

ただ、もともとデスラバは東大の生協書店でも目立つ位置に置いていただいていたんですけど、駒場の方では不健全だという投書があって残念ながら撤去されちゃったんですよね。

だからぜひ、お近くの本屋で(笑)。

この通りです。

最後に

異色な経歴を歩まれていた智弘さんでしたが、突拍子もない考えを持たれているわけではなく、自分と他者のことを真剣に考え、それと向き合ってこられた結果、独自の道を選ばれていた方でした。

インタビューに快く応じてくださった智弘さん、取材に協力していただいたマガジン編集部の方々、そして最後まで記事を読んでくださった皆様、ありがとうございました。

この記事を書いた人
筆者のアバター画像
チロル
空想で生きてます。
記事一覧へ

こんな記事も読まれてます