新種生物はあなたのすぐそばに!?微生物に魅せられた東大院生が語るミクロな世界

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突然ですが、私は、新種生物の発見者です。

それも1種や2種ではなく、少なくとも6、7種は新種候補として今、私の手中にあります。

「え?ニュースでそんな記事見たことないぞ?」と思われるかもしれませんが、それは当然です。

私の専門である微生物学においては新種というのは、(少し)頑張れば意外にあっさり見つかるのです。例えば私の所属する研究室で、過去に高校生を対象に行った体験実習では、高校の池や近くの川などの水を撒いた寒天培地から新種が出るか?ということをやりました。計30数人の高校生が採った40〜50サンプルから少なくとも2,3種は新種候補となるくらいには「出ます」。

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微生物・・・?

微生物と聞いて思い浮かべるのは「病気」、「発酵食品」「大腸菌」・・・といったところでしょうか。微生物とは、一般的に「ヒトの肉眼で見られないサイズの生物」とされ、長さで約0.2mmより小さいと「微生物」となり、生物として特定のグループを指すものではありません。

そして私の研究している「微生物生態学」は、そういった病原や発酵に関わる微生物に限らず(応用方面の研究もありますが)、生態系の中で、「どこに、どんな微生物が、どれ位いて、何をしているのか」ということを明らかにしようとする学問です。

昨年のノーベル生理・医学賞を受賞された大村智先生の受賞研究は、「ゴルフ場の土から分離した新種の細菌を調べ・・・」からスタートしており、まさに、ここの部分が微生物生態学です

名前も知らない奴らばかり

 私の研究対象は微生物の中でも特に、「細菌」「古細菌」と言われるような「原核生物」です(動物や植物、カビ・キノコなどの菌類は真核生物)。細菌はいわゆる、大腸菌や納豆菌、乳酸菌などが有名ですが、環境中には非常に沢山の細菌が生息しています。

私の対象としている海水だと、海水1mL中には105〜106細胞(匹)の細菌がいて、地球に存在する海水全体では1030細胞にもなると言われています。淡水や土壌などの環境も合わせると、さらに多くの細菌がいることが容易に想像できます。

まだ見ぬ微生物を探しに、海へ出る。

まだ見ぬ微生物を探しに、海へ出る。

しかし、これだけたくさんの細菌がいながら、現在名前のついている細菌(古細菌も含め)は1万種ちょっとです。動物だと130万種以上、植物だと約30万種に名前がついているにも関わらず、これほど細菌の種数が少ないのはなぜか・・・。それは、「環境に生息している細菌のほとんどは培養できていない」からです。なんとその数、99.9以上とも言われています。

しかし近年の分子生物学的手法の発展により、1種1種を調べず、例えば「海水100L」中の「すべての細菌のすべての遺伝子」を丸ごと分析することが可能となっています(メタゲノム解析といいます)。

つまり培養できなくても、少数しかなくても「どんな種がどれ位いるのか」を知ることができます。海水に限らず、土壌や湖、温泉、ヒトや虫などの腸内など、あらゆる環境でこういった研究がされています。

実はもっといた、知らない奴ら

そして細菌の潜在的な多様性に関するインパクト絶大な研究が、去年〜今年にかけて発表されました。それは、「Unusual biology across a group comprising more than 15% of domain Bacteria」(Nature 523, 208–211 (2015))「A new view of the tree of life」(Nature Microbiology 1, Article number: 16048 (2016))という論文で、アメリカコロラド州の地下水をサンプルとしたメタゲノム関連の研究です。

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細菌の下限サイズはこれまで0.2μmと言われてきたのですが、このサイズの孔が空いたフィルターを通った(つまりこのサイズ以下のもっと小さな)細菌が非常に多様なグループを形成しているということが分かりました。

つまり、もっと小さい微生物を、今まではほとんどを取り逃がしてしまっていたわけです。

では、その「もっと小さい微生物」は、どのくらい多様だったのでしょうか?

分類学における生物の大きな分け方には「門」というものがあります。我々人類は「脊索動物門」、エビ・カニ、虫なら「節足動物門」で、動物全体だと計30数個の門があります。

細菌だと、現在培養できて名前の付いている門は30弱ですが、この研究では少なくとも新しく35個、候補では合計250個の門に相当するような多様性が見逃されてきたということがわかりました。更に別の研究では、細菌全体の門の数は1500個に上ると見積る研究者もいます(今知られてる種類の500倍!?)

簡単に言えば、これまで知られていた細菌と全然違う奴らが、たくさん見つかってしまったわけです! こんなことが一つの実験で起こってしまうくらい、まだまだ夢がある領域だと言えます。

種類もさることながら、100度の水でも生きていけるやつ、pHが0近い環境に生息してるやつ、体内に金の粒子を作るやつ、ヒトの致死量の数百倍の放射線に耐えられるやつ・・・キャラもまた多種多様なのです。

新種生物の名付け親になれる!

私のメイン研究は、(詳細は書きませんが)海洋に生息する特徴的な細菌(とある遺伝子持ってたり持っていなかったり)を用いて、実験室で培養し、増殖を調べたり遺伝子解析をしたりする中で「細菌の生き様」を考え、生態系の中での役割を明らかにすることです。そしてサブの研究が「新種探索」です。

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私が見つけた新属新種の微生物を培養しています。

冒頭に書いたように、新種は、例えば動物や植物よりも遥かに見つかりやすく、単に新種というだけではなく、分類群でもっと上の「属」や「綱」、「門」が見つかることもあります。

ラボの先輩が言っていた言葉を借りると、「イヌでもネコでもその辺の植物でも学名を1から名付けた人なんて誰だかよくわからんし、普通なら会えもしないが、微生物業界ならあっちにもこっちにもいる」

私もその1人になれつつあり、見つけた細菌の少なくとも1つは新属新種ということで学名(ヒトならHomo sapiens)を“苗字”と“名前”部分両方とも命名することができそうです

なぜ新種が見つかりやすいのか?

それは驚くべき多様性と「99.9%は培養できていない」という点がミソです。99.9%が未培養といっても全てが「不可能」なのではなく、「培地の成分を変えると可能になる」こともあり、単に「見逃されてきただけ」ということもあります。

例えば0.2~0.5mLの海水を寒天に撒くと、数十~百を超えるコロニーができます。その1つ1つからDNAを抽出し、種を判定する「目安」となる部分を遺伝子解析装置で読み取ります。その部分の相同性が既知の細菌と97%以下となれば(つまり遺伝子の目印部分が3%以上、すでに知られている細菌と違っていれば!)それは新種候補となります。そこから新種記載のためにはその他数十項目の生理試験が必要ですが。

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海水の採取場所や深さやタイミングが違えば、いる細菌も違ってくる。全ての条件の海水を調べるなんて不可能です。だから見逃してたけど実は新種だった! ということも有り得ます。

もちろん、新種探索をするだけでは微生物生態学の目指すものを達成できません。様々な手法を組み合わせることで、これまで機能未知であった遺伝子や種(ダークマターと表現されることも)が、生態系で果たす役割を明らかにできるのでしょう。

手法としては例えば、環境中のDNAを全て調べる先述のメタゲノム解析以外にも、その環境で“その瞬間”にどういう遺伝子がどれ位使われているかをみるメタトランスクリプトーム(RNA)、あるいはメタプロテオーム(タンパク)という手法もあります。

こうしたダークマターに「培養実験」という手法から少しでも迫れるといいなぁと思っています。微生物は病原や発酵・・・確かにわかりやすいイメージですが、この記事を読んで少しでもそのイメージが拡張されれば幸いです。


東京大学大学院新領域創成科学研究科

大気海洋研究所・微生物(生物遺伝子変動)分野 博士課程3年 中島悠

大学院生出張授業プロジェクト(BAP)・元代表

大学院生が(主に母校の)高校生に向けて大学院での研究や科学の魅力を伝えるという出張授業や、その内容をベースとした一般向けのサイエンスカフェBAPcafeを開催している。(BAP:https://sites.google.com/site/baputokyo/ BAPcafe: https://www.facebook.com/chatinbapcafe

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