映画『君の名は。』が、東大生の心を掴んだ理由とは。【レビューコラム】

space-1728314_1920
LINEで送る
Pocket

新海誠は決して大衆迎合していない

「君の名は。」の大ヒットを受けて、「新海誠はこれまでの作風を捨てた、大衆迎合した」という主張が多くみられるが、果たしてそうだろうか?

20140330-photo0000-1899-2

 

自分の立場を説明しておくと、僕は新海誠の大ファンだ。

2年前に初めて「秒速5センチメートル」を観て、その独特な世界観の虜となって以来、彼の監督作品は全てチェックしている。(といっても6作品しかないが)

 

その「新海誠のこれまでの作風」を享受してきた立場からすると、

新海誠は変化したのではなく、進化した

と思っている。

 

それでは、どこが今までの作品よりも進化しているのかを見ていこう。

①主人公たちが孤独じゃない

これまでの作品の主人公・ヒロインは孤独だった。

新海作品の特徴としてよくあげられる「モノローグの多さ」はその象徴で、主人公たちは自分の世界に閉じこもり、自分の思いを外部に発信することはなかった。

物語のほとんどが主人公・ヒロインの2人だけで進行し、それ以外の登場人物はほとんど蚊帳の外だった。

では、主人公とヒロインの間は心を通わせているかというと、そういうわけでもない

彼らはいつも、距離に引き裂かれ、届かないメールを打ち、送る宛のない手紙を書き、同じものを見ているつもりで、違うものを見ている。

新海作品の主人公・ヒロインは、徹底的に孤独であるのが特徴だった。

 

しかし、「君の名は。」における主人公たちの周りには、奥寺先輩や勅使河原という魅力的なキャラクターがおり、彼らと思いを共有し協力し合うことで、作品世界が大きく広がっている

この進化には2つの要因があげられる。

 

1つ目、環境の変化

登場人物の少なさは、新海誠の作家性に起因するものではなく、単にスタッフの数が少なく、多くの登場人物を動かせなかったという要因の方が大きかった、ということをSENSORSのインタビューで語っている。

僕は『言の葉の庭』もエンターテインメントのつもりで作っていたし、その前の作品も力が及ぶ範囲でエンタメにしたいという気持ちで作ってはいたんですけど、でも何か足りないという感覚はもちろんあったんですね。

個人制作から入ってきたというのもありますし、特に初期の頃はスタッフもあまり多くなかったので、意図的に話というか登場人物の数も少なくして、自分自身の能力と手持ちの環境も限定している中でベストなものを作ろうとやってきたんですけど、「やりたいこと」に追いついていないという感覚はずっとありました

(中略)

中身によって器が決まるのではなくて、むしろ器の形が決まることで中身が規定されることの方が実際多いと思います。

僕は個人制作から始めたということがミニマムな物語を作りがちだったということに直結していると思いますし、一人で作るということは手間を最小限にしなければいけないから「君」と「僕」のような1対1の世界の物語とどうしても繋がっているのでしょう

SENSORSインタビューより

これまでの作品で、新海誠は「やりたいことができていなかった」だけであって、大衆迎合のために「自分のやりたいことをあきらめた」わけでは決してないことが分かる。

モノローグが多い「新海誠独自の作風」は、彼自身やむを得ずやっていたことで、それを「作風を捻じ曲げた」と批判するのは、おかしいのだ。

 

2つ目、物語創作能力の向上。

前作「言の葉の庭」の小説版の連載で、主人公・ヒロイン以外のキャラクターに焦点を当てたストーリーを作ったことで、物語づくりの能力が向上したことを、監督自身がインタビューの中で語っている。

簡単に言うと、『言の葉の庭』と『君の名は。』の間にした色々な仕事からの連続性です。

それは例えば、大成建設やZ会のCMなどですが、なかでも本作をつくるうえで最も大きかったのが、『ダ・ヴィンチ』(KADOKAWA)での小説版『言の葉の庭』の連載です。

およそ8カ月、オムニバス形式の連載だったので、ひと月ごとに物語を完結させる。それらは今思えば、物語づくりのトレーニングとして、『君の名は。』につながっています。1話を書くにあたって、数冊の本を読んだり、数人の人に会って、話を聞いたりしていて、創作に関わる一連の活動で得た手応えや手つきを使ったという意味で、『君の名は。』にも連続性を感じますね。

KAI-YOUインタビューより

 

以上からわかるように、新海誠というのはまだまだ発展途上の映画監督・脚本家であり、「君の名は。」で大衆に迎合するために作風をねじ曲げたのではなく、今まで出来なかったことが出来るようになった、単に環境が改善され、進化した・成長しただけだと言える。

②ハッピーエンド

「大衆迎合」論者の多くがその論拠とするのは、「運命で結ばれた男女が出会う」という完全なハッピーエンドであることだろう。

なぜハッピーエンドであることが問題かというと、これまでの新海作品では完全なハッピーエンドは無く、「運命の人なんていないし、いたとしても結ばれることはない」、「思いが届かないことへの諦めを抱えて、それでも生きていく」、「青春時代の瑞々しい思いが永続することはない」などの今回とは真逆のテーマを持っていたからだ。

こういうニヒルな世界観が一部のファンの間で熱狂的に支持されていたにもかかわらず、今回は完全に翻し、運命の出会いを全面的に許容した

これは大衆迎合のための作風捻じ曲げであり、古参ファンへの裏切りだ、というのが彼らの主張だ。

裏切られたとされる古参ファンの一人として、反論が2つある。

 

1つ目、震災の影響

この結末・テーマの変化の裏には、大衆迎合なんかよりも深い理由があることを監督自身が語っている。

長くなるが、大事な言葉が多く含まれているので、ノーカットで引用する。

おっしゃる通り、確かにこれまでは届かないことへの諦念、あきらめみたいなものを抱えて、それでも生きていく姿を描いていました。

これも『言の葉の庭』から変わってきていますが、『君の名は。』では、ある意味、奇跡が起こる物語にしようと思ったんです

東宝で300館規模だから、とかではなく、なにかしらの願いの物語にしたいという気持ちがありました。震災以降、大きな事件や災害があった中で、いろんな人が願ったり祈ったりした気がします。「こうじゃなかったらよかったのに」とか「こうすればよかった」と。

2010年代は、そういう、社会全体が強い願いや祈りに支配された時間が何度かありました。現実で実際に叶ったもの、叶わなかったものがあったと思いますが、フィクションでは、そこに希望を込めた物語を描きたかったんです

例えば『秒速5センチメートル』をつくったときは、そういう感覚がなかったんだと思います。強い願いや祈りみたいなものを持っている人は個々にはいたんだろうけど、社会全体としては持っていなかったと思うんです。みんなが実際に体験したことだからこそ、絵空事ではない、もう少し生の感覚として描けると思って、今回のような結末を描けたんだと思います。

KAI-YOUインタビューより

同インタビュー中で語られていることだが、村上春樹がオウム真理教事件を経て、作風が変わっていたように、新海誠も震災を経て変わったのだろう。

余談だが、新海誠に限らず、震災後の我々はもう以前とは違うと思う。彗星が落ちた後の街を見ても、あまり違和感を感じない自分に気づいたのではないだろうか。

 

2つ目、これは個人的な意見になるが、古参ファンは裏切られたどころか、救われたと思っている。

ラストのシーン、1度はすれ違い声をかけることなく去ろうとする瀧と三葉を見た時、「秒速5センチメートル」の有名なラストシーンがリフレインした方が多いだろう。実際、監督も意図的にやっていると思う。

 

しかし「君の名は。」の瀧と三葉は振り返る。

その瞬間、「秒速5センチメートル」の、「雲の向こう、約束の場所」の、「言の葉の庭」の、「ほしのこえ」の全ての救われなかった主人公・ヒロインたちが救われたような気がした。

まあ、これは本当に個人的な意見というか感想なので、あまり共感を得られないかもしれない。

 

以上の理由から、新海誠は大衆迎合のために作風を捻じ曲げたのではなく、環境が改善し、監督・脚本家としてスキルアップしたことで、自分が本当にやりたいことをできるようになったのだ。次回作は「君の名は。」を超えるヒットになるかは断定できないが、さらに進化した作品になることは間違いないだろう。

 

僕のレビューは、過去作品を見たことのない方はにとっては、あまりピンと来なかったかもしれない。

「君の名は。」を観て、新海誠が気になった!という方は、ぜひ過去作品も観てみてほしい。

『君の名は。』をもう一度

「震災の直後というよりはしばらく経ってから語られる傾向にある。」(<災害と物語>について)

この文章、印象に残りました。福島第一原発の事故をモデルにしてると言われる『シン・ゴジラ』が、『君の名は。』とほぼ同時期にヒットしたのも無関係でないのかもしれませんね。

みなさんもレビューいかがでしたでしょうか。レビューを見て、もう一度『君の名は。』を見に行ってはいかがですか?

興味深いレビューをたくさんいただき、ありがとうございました。これからも引き続きレビュー企画お送りしていきますので是非よろしくお願いします。

LINEで送る
Pocket

space-1728314_1920

ABOUTこの記事をかいた人

KZ

UmeeTカメラマン シティボーイを目指してます

この記事に感想を送る▼

メールアドレス (必須)

メッセージ