いまこそ障碍の本質を問おう。凄惨さはすぐに忘れてしまうから。津久井やまゆり園の事件を受けて、脳性まひの東大准教授・熊谷先生を訪ねる。【前編】

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 たとえば薬物の厳罰化。国際的に薬物政策をどうするべきかという議論は活発になされています。かつては、War on drugなどと言って、各国で厳罰化政策をとられた時代があったが、それによっていい結果がもたらされたかというと、エビデンスとしては効果がなかった。むしろ近年は、単純使用(他の犯罪をともなわない薬物使用)の脱犯罪化が検討され始めています。

 もし今回の事件の影響のひとつとして、薬物依存症者を刑務所にいれるべきだという議論がなされたならば、依存先を増やすことで依存症から回復するという方向とは逆になります。

 施設のセキュリティを強化すべきという主張も、施設の中にいる人の依存先を減らす方向と言えます。

コミュニティの信頼に対する影響

 先日追悼集会を開いた際、ライナスさんというカナダのソーシャルワーカーが言ったことが非常に印象的でした。

 彼女によると、こういう事件が起こると、私たちはコミュニティの誰かを自分たちとは異なる他者とみなし、その他者のせいでこのような事件が起きたと解釈する誘惑にかられる。例えば、依存症者、精神障碍者、専門家のせいにして、彼らをコミュニティから一層排除することで、危機に陥ったコミュニティが再生するという幻想を抱こうとするわけです。

 しかし彼女はこう続けるんですね。

 There is no “other” in our community.

 私たちのコミュニティに他者はいない。私たちは、同じコミュニティのなかで、尊厳を持って互いに支え合う存在である尊厳をもってという中には、当然、常態化した暴力を受けないという条件が含まれます

 そしてすでに詳しくお話したように、暴力を受けないためには、すべてのメンバーが依存先を多く持つ必要がある。

 いま、共生社会という理念が、試されていると感じます。


 今回、自身が障碍当事者である熊谷先生との対話を通じ、私たちがどのようにして今回の事件に向き合うべきかを探ってきた。先生のメッセージは、この言葉に集約されると思う。

「この世界に他者はいない。」 

 事件の衝撃そのものは、「当事者」でない限り、どうしても私たちの中から消え去ってしまう。犯人の異常性に多くを求めるほど、私たちと事件の距離は大きくなってゆく。

 皆さんの多くは、自らのことを障碍者だと思っていないだろう。私もそうだった。私は健常者であり、特に生きることに困ってはいない。私は一介の一般市民であり、障碍とは無縁で、差別の被害者になることはない。そう思ってきた。

 しかしよく考えてみて欲しい。郊外の閉ざされた施設の中で起きたこの事件から、このまま遠ざかっていて良いのか。

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  暴力と依存先の数は反比例する。最後過ちの引き金を握るのが誰か一人だったとしても、その人との依存関係を断ち切るかどうかは、私たち次第である。きっと今回の暴力の構図の裏にも社会全体の、つまり我々全員に影響している問題があるだろう。

 優生思想は私たちの中にある。分かりやすい形で「作戦」を起こさなくても、この思想はこれからの社会を形作りつつある。陸の孤島は、私たちが障碍を恐れなくなるまで、無くなることがないだろう。

 私たちは皆当事者である。自分を「健常者」と思おうが、私たちは常に障碍に関わっている。更にいうと、進化的多数の条件が変化しさえすれば、あなたが真っ先に尊厳を失う可能性もあるだろう。

 そこで次回は、今回の記事を読んでくださった皆さんと、障碍の本質にあと一歩近づこうと思う。私たちは既に障碍の中に投げ込まれており、なんとなく障碍を課題とするだけでは追いつけない、深刻な問題があることを明確にしたい。

 そのとき、私たちは障碍との関係を身近に感じられるようになり、立場を越えて希望を確かめ合うことができると思うから。

まずは話してみよう。

 今回の事件や取材の内容に関して、取材チームは、先生以外にも色々な人々と直接話し合いたいと考えています。障碍に限らず、貧困や自殺、認知症など、個人への差別、スティグマに繋がる問題に関心のある人同士で、ご飯でも食べながらお話ししませんか?

 興味のある人は下のフォームからご連絡をください。

 なお、11月23日14~17時、駒場キャンパスにて、「能力主義」に関する内閣府と熊谷研の合同ワークショップが開催され、そこで熊谷先生とお話することができます。

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