東京都主催のスタートアップコンテストTOKYO STARTUP GATEWAYの2014年度ファイナリスト、清水敦史さん。
台風をエネルギーに変える、「台風発電」で風力発電の歴史を変えようとしている起業家だ。
「自分の発明で世界を変えたい、教科書を書き変えたい」
そんな壮大な夢を追いかけ、実現不可能と言われた技術に挑み続ける、少年漫画の主人公のような姿にあなたも必ず触発されるはず!
きっかけは2011年3月11日の原発事故だった。
2011年当時、大阪の大手電気機械メーカーに勤務していた清水さん。震災の直接的な被害は受けていないが、原子炉が爆発する映像に衝撃を受けた。
「あんなことが日本で起きると思ってなかった。でも、これと同じことは今後も起こりうるはず。原発はなくさなくてはならない」
ただ国会議事堂の前で原発反対を叫ぶだけでは、なにも変わらないと思った。
「代わりの電力」を見つけなくては。
「僕らは原発の恩恵を一番受けてきた世代。停電を経験することなく、何不自由ない生活ができた。だから、再生可能エネルギーの時代を作る責任は僕らにある」
再生可能エネルギーといえば太陽光発電が主流だが、清水さんが目を付けたのは風力発電。それも、台風を利用した発電だ。
「毎年日本を通過する台風は、地震よりも大きなエネルギーを持っている。その一部だけでも使えたなら、と思ったのがきっかけでした」
太陽光発電ほど広大な土地を必要とせず、台風を利用できる。これほど日本に適した発電はないだろう。
とはいえ従来のプロペラ型風力発電機では、台風発電は不可能だ。
なぜなら、プロペラ型は強風や風向きの変化に弱く、すぐに壊れてしまう。ゆえに、通常の風力発電機は台風が来たら停止させなければならない。
そこで清水さんが考案したのが、「垂直軸型マグナス風力発電機」だ。
技術的な説明は割愛するが、「垂直軸型マグナス風力発電機」とは、
プロペラではなく、円筒を気流中で自転させたときに発生する、「マグナス力」により動作する次世代風力発電機。
プロペラ型と比べ、安全性の向上、低コスト化、静音化が期待できる。加えて、理論上は台風のような強風時にも発電することが可能というもの。
つまり、災害であるはずの台風を資源に変える、世界初の革命的な発明なのだ。
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革命的な発明はどのようにして生まれたのか。
大学院での研究テーマは物流。発電機は完全な素人だが、「ヨソ者」だからこそプロペラの無い風車というイノベーションを起こせた、という。
「研究者や大企業はプロペラ風車にこだわりすぎている。風力発電の学会で研究者に意見を求めても、否定されることが多いしね。たしかに僕らの発電機はドラえもんの秘密道具みたいな夢物語かもしれないけど、その分22世紀のスタンダードになりうると信じてる」
仕事の傍ら、ホームセンターで売っているような簡単な部品を使って、ひたすら自宅で試作機作りに没頭した。
そして、発泡スチロールでできたなんとも粗末な試作機が、扇風機の風を浴びながらくるくると回った時、決意する。
「この技術で特許が取れたら、台風発電に人生を賭けよう」
2013年に無事特許を取得すると、平均年収1位ともいわれる大企業を躊躇なく辞めた。
なぜ辞めたのか?
この質問に、清水さんはさも当然という風にこう答えてくれた。
「自分の発明で世界が変えられるとしたら.、会社を辞めてでもやる価値があると思いませんか?」
2014年10月に会社設立、同10月にはNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)のベンチャー支援制度を利用して、助成金を獲得。
しかし、順風満帆かのように見えた2014年12月、思わぬ落とし穴が待っていた。
専門家に頼んでコンピューターシュミレーションをしてもらったところ、なんと清水さんの技術では発電効率が1%以下しかないことが発覚したのだ。
従来のプロペラ型発電機の発電効率は約40%。本人曰く、1%以下は「ただの板っきれを置いといたほうがマシなレベル」
それもそのはず、マグナス風力発電機は、これまで世界中の誰もが実用化に成功していない、通称「回らない風車」
「新しいアイデア」というよりは「誰もが思い付きはするが、実際にやろうとは思わないアイデア」なのだ。
7月のNEDOの審査会までに発電効率を上げられなかったら、助成金は打ち切り。今までやってきたことがすべて水の泡になる。
「そこからは毎日試行錯誤の日々。発電機の円筒翼に段ボールや網戸を巻き付けたり、とにかく思いついたことを試しまくった。今思えばかなりバカみたいだけど、当時は真剣だった」
それでも、審査会まで1ヶ月に迫った6月時点で、発電効率はまだ少しは改善したものの、まだ1%以下。ほぼ何も変わっていないに等しい。
しかしある日、状況を打開するヒントは実は一番近くにあったと知る。
「風の流れを体感しようと思って、発電機をぺたぺた触ってたら、発電効率が跳ね上がる瞬間があった。詳しくは言えないけど、その瞬間に起きたことを突き詰めたらエネルギー変換効率が30%まで上昇した。神が下りてきたと思ったね。流体力学の教科書を書き換えるような発見に必要だったのは、計算式じゃなくて自分の右手だったんだ」
発明とは頭で思いつくものではなく、手で見つけるもの。
その愚直さは、電球のフィラメントを作る際、6000種類もの材料を試したというエジソンの逸話に重なる。
「『天才とは1%のひらめきと99%の努力』とエジソンは言ったけど、僕の場合99%の努力が1%のひらめきを生んだ。天才的なひらめきがないと、発明ができないなんてことはないと思う」
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無事、助成金打ち切りの危機を回避した清水さんだが、「本当の勝負は今年の夏だ」と語る。
「今年の夏に沖縄で、初めて屋外での実験を行う予定。台風が来て、従来のプロペラ型風車が停止してる中、うちのマグナス風力発電機だけが回り続けている構図を見せられれば、台風発電実現に向けて大きなアピールになる。逆にうちの発電機が台風で吹っ飛んだら、会社も吹っ飛ぶことになるけどね(笑)」
当面の目標は東京オリンピックまでに垂直軸型マグナス風力発電機を実用化すること。新国立競技場に設置するという野望もあるらしい。
「これから先も困難が待ち受けてると思うけど、自分にはこれまでいくつもの修羅場を乗り越えてきたという自信がある。だから、どんなことがあっても乗り越えられるはず」
その失敗しても挑戦し続けるバイタリティーはどこからくるのか。
清水さんがいつも自分の心の支えにしているという、二つの言葉を教えてもらった。
「人間が想像できることは、人間が必ず実現できる」 ジュール・ヴェルヌ
「事を成就するためには、志があり、忍耐があり、勇気があり、失敗があり、その後に、成就がある」 田中久重(東芝の創業者)
誰もが実現不可能と決めつけていた技術に人生を賭け、平均年収日本一の企業に入社しながらそれを捨てる勇気があり、絶望的な状況下でも挑戦し続ける。
まさに上の言葉通りに生きる清水さんには、必ず成就があるに違いない。
今年の夏の実験、成功してほしい…!!
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